また、右眼が痛いのである。

 去年の夏、右の眼球を傷つけてしまった。不注意にも紙の束が眼に入ってしまって、まるでブニュエル監督の「アンダルシアの犬」の冒頭シーンみたいに(というのは大げさであるが)、サアっと角膜を鋭利にトレースされるのが自分でもわかった。翌朝、大きな異物が混入したような痛みで眼が開けていられなくなり涙がとまらず、眼科に行った。「ああ、たしかに角膜に傷が付いてますね。線状に上皮が剥がれています。これは痛いでしょう。でも、眼球も他の皮膚と同じです。擦り傷が次第によくなっていくように一週間もすれば徐々に治っていきますからと」と点眼薬をふたつ処方してくれた。「ティアバランス」という角膜の傷を治す成分のものと「ガチフロ」という炎症止めの抗菌剤である。確かに、一週間程度で痛みは治まっていった。時折違和感は少しばかり感じるものの、幸いにも傷は黒目の部分にはかかってないようで視力に影響はない。

 しかし、十一月頃からまた痛みがぶり返してきたのである。夏に行った眼科医は「また別の場所が傷ついたのかも」とのことだったが、なかなか痛みが治まらないので別の眼科に行ったところ「正式の病名は、再発性角膜上皮びらんです。半年前の傷が再発しているんでしょう。冬になって空気が乾燥してきたことも原因だと思われますが、ちょっとしたことで、せっかく埋まったはずの角膜の上皮の傷がまた剥がれてしまうんです」とのこと。治療方法は同じだが、痛みが治まっても当分は点眼を欠かさない方がいいというアドバイスを受けた。「あの、先生、コンタクトはいつ頃からまた付けられるようになりますか?」「……もう、お付けにならない方がよろしいかと」

 昨年末のこの宣告はちょっとショックであった。ふだんは眼鏡ばかりであるが、スポーツ、特にスキーをする時にはソフトコンタクトが欠かせなかったのだが、それももうダメである。そして、最後に先生が言ったひとことが身に染みた。「加齢とともに角膜の傷も治りにくくなります。そして、治ってもちょっとのことで再発してしまいます」……眼球だけではない。年を取ると、体中のどこもかしこも、一度でも怪我や病気をするとなかなか完治しないということなのだろう。もう無茶はできないのだ。六十歳が間近なことを身をもって知らされる「再発性角膜上皮びらん」である。