大学教員になって改めて身近になった大学入試、いよいよ今年も本番到来である。今年は最後のセンター入試。来年からは大学入学共通テストとなる。共通一次試験に惑わされた者としては(当時は5教科7科目1000点満点だった)、この40年の変遷はなんとも感慨深い。人生を狂わされた感あり、今思えば人生がより面白くなった感もあり……。

 都心でも雪が降ったこの冬一番の寒さの中、受験会場に向かう彼ら彼女らの姿に当時の自分を重ねてみると、あの頃の自分のオツムの中は、間違いなく、我が人生において最も精緻な状態だったのだろうと今更ながらに思う。
 日本の教育はやれ知識偏重、暗記ばかり、英語も実際に使えない云々、とはよく言われることだが、英文法にせよ、歴史の暗記物にせよ、体系的に思考するための素材としてはそれはそれでとても意味のあることなのだと思う。今はなんでもかんでもイノベーション発想で、異分野のセレンディピティばかりがもてはやされるが、それは裏を返せば、ひとつのことを忍耐強く体系化することを軽んじる危険性にも繋がる。

 自分は、かつて大学ではアカデミズムを極めることができず、それまで積み重ねていたものを4年間の間に放擲し、結果、実業界に進むことになった。それが巡り巡って30数年後の現在、再びアカデミズムの片隅に身を置かせてもらえている。そのことの有り難みを噛みしめ、ここ三年間、自分なりに必死にアタマの中の体系化、その再構築を試みているのであるが、一度放擲してしまったものを取り戻すのはやはり至難の業である。ストレートで学部から大学院、そして研究者へと進んできた同僚の若き先生方と話をしていると、さすがだなあ、と感じる。彼ら彼女らのアタマの中の襞は、おそらくは一度も弛緩していないのだ。

精緻化

Summicron 35mm f2 2nd + M9-P + Color Efex Pro


 受験生のみなさん、みなさんが今後どのような道を進まれるのか、人ぞれぞれの考え方があり、人ぞれぞれの計画的偶発性があると思いますが、ただ間違いなく言えることは、今のみなさんのオツムの潜在的な可能性は、これからの長い人生全体を鑑みても、おそらくは最高の状態だということです。そのことを大切に愛おしく思って、この入試シーズンを乗り切ってくださいね。