喉がチリチリする。風邪かな? 熱はないようだけれど(ま、歳をとると体の反応が鈍くなるからあまり熱も出ないんだけれどね)、でもやっぱり体がだるい。

 ベッドに仰向けに寝ころんで耳にワイヤレスのイヤホンを突っ込み、apple watchでミュージックアプリを開く。チリー・ゴンザレスのピアノソロを選択する。apple watch、アナログの腕時計が好きなので今まではずっと敬遠していたのだけれど、やっぱりこれは便利。手元でほとんどのことがコントロールできる。リューズ部分を回せば音量調節も瞬時だ。




 それから、仰向けになったまま本を読み始める。一年遅れで文庫本になった江國香織さんの小説だ。冒頭でいきなり自分と同じ年齢の男の話が出てきてドキリとしたが、どうやらこれは作中作で、ほんとうの主人公は別にいるようだ。

 三十分も読んでいたらウトウトしてきた。いつのまにかブックカバーが外れてしまっている。ゴンザレスのピアノ曲も二番目のアルバムに移っている。細かい雨が降っている。水滴が窓硝子の表面で蠢いている。

 えっと、どこまで読んだんだっけ? ああ、ここからだ。

 これは地の文なのか、またまた作中作なのか。頭の中がぼんやりしている。頭の中にも少しずつ外の湿気が浸食してきてだんだんよくわからなくなってくる。ただ寝ぼけているだけなのかもしれないし、浅い夢を見ているのかもしれない。あるいはその夢の中でまた別の現実が始まっているのかもしれない。