梅雨時は気圧の変化で偏頭痛になることも多い。そんな時、僕はこの店に行く。スピーカーはかなりの音量で鳴っている。その真ん前の席に座る。偏頭痛のアタマにはこのくらいの刺激がちょうどいい。膿んだ脳の襞がシャキとする。店内は適度にエアコンも効いている。天井は長い間の煙草のヤニで飴色に染まっている。数年前から禁煙になったが、長年の煙草臭の名残が適度に残っているのも悪くない。
二時間後、店を出ると雨はあがっていた。海岸通りまで行って、歩道橋を登っていつもの遊歩道を歩く。風が心地いい。薔薇が咲いている。向日葵が咲いている。港には大きな船が停泊している。
「船に乗りませんか?」と声をかけられた。あの大きな船ではない。夜景を楽しむ小さなクルーズ船の勧誘だ。「今夜はこれから波も穏やかです。絶好のクルージング日和になりました。いかがですか?」勧誘する人の声は穏やかで、まるで物語に誘う語り手のような話し方だ。僕は船に乗ってみたくなる。「出航まであとどのくらいありますか?」「三十分後の7時です」「わかりました。間に合うと思いますので二人分席を確保しておいていただけませんか?」僕は彼女に電話をする。


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