naotoiwa's essays and photos

カテゴリ: summer



 今度は、超大型の台風である。

 2020年の夏はなんともひどい夏であった。コロナ禍はもとより、執拗な長雨が続いて8月にならないと梅雨が明けなかったり、かと思うと、その後は一転猛暑、40度超えのところまで出てきたり、で、9月になったらなったで、すぐにこの台風である。

 かつての夏は、もっと心地よい季節だった。真夏でも厭な汗をかくことはなく、ドライ効果をうたう化繊など着なくとも、潮風をなびかせた綿100%のTシャツだけで快適だった。海が好きな女の子たちはきれいに日焼けして、踝のところまでロールアップしたジーンズで夏を謳歌していたし、その背景にはいつもボサノヴァの名曲が流れていた。




 地球は、この世界は、元に戻るのだろうか?
 
 
*沖縄、九州エリア等に甚大な台風被害が出ないことを切に祈っています。

遠き道

Dallmeyer 1inch f1.8 + E-PM1


 遠き道。


summer sunset

sigma 45mm f2.8 DG DN + fp + Color Efex Pro


 夏の日の夕暮れ時が僕は好きだ。昼間の強い陽射しが熱を帯びて皮膚の表面に浮き出して、体中が甘ったるく倦怠している夏の日の夕暮れ時。熱く腫れぼったい空気の中に時折涼しい風が流れ込む。潮風に染まったTシャツの上にコットンのカーディガンをはおる。あの袖を通す時の感触が僕は好きだ。岬の高台から、海岸沿いに続いてゆくロードウェイの曲線を見下ろす。チラチラ明かりがつながり始めて、打ち寄せる波ひとつひとつがクッキリと朱色に映えて見える。そんな夏の日の夕暮れ時が僕は好きだ。

『EASY CHAIR』(1991)



 ようやく梅雨もあけ、いよいよ盛夏である。ビーチはどこも、ひとひとひとの波である。「世の中、夏休みなんだね〜」と海の家のテントの中で彼女がつぶやいている。「8月に入ると、夏休み、あっという間に過ぎちゃうんだけどね」

 例によって、今年もサーファーの女ともだちとこうして海に来ているのである。「会うの、ものすごく久しぶりな気がする」「一年ぶり。毎年恒例」「いや、一年以上会ってなかったんじゃない?」「あ、去年は6月に会った。梅雨明けが異常に早かったからね。それが今年はもう8月」「一年と二ヶ月ぶりってこと?」「そう」

 「最近、どう?」「……トシだね」「らしくないなー、なんかあった? 自信喪失?」「いや、まだ全然ズレてないと本人は思っているんだけどね」「なら、それでいいじゃん」「でもねえ」「でも?」「自分がいいと思ってやってることと、まわりがそれを理解してくれているかのギャップというか」「そんなの、誰だって、どんな時だってあるよ」「ある。でも、トシを取るとそのギャップがひどくなるみたいなんだ」「なんで?」「なんでかわからないけど、時には180度違って相手に見られていたりすることがある」「180度? それって正反対ってこと?」「ああ、で、ひっくり返る」「ひっくり返る?」「ラストで、自分でいいと思ってやっていたことが、オセロゲームみたいに、どんでん返し」「……ううむ、それはキツいか」

 「アタシももう若くはないけどね、そういう経験は、ないなあ」「僕より二十も若いからね」「そういうことじゃないと思うけど」「ん?」「年齢には関係ない」「じゃあ、なんだろう?」「……たぶん、ストーリィ、つくろうとし過ぎなんだよ」「ん?」「いろいろ順序立てて積み上げすぎなんだよ、きっと」「……」「正しく積み上げれば積み上げるほど、逆にどこかの切り換えポイントひとひねりで、ゴロッと、そのまま全体がひっくり返る」「うむ」「ワタシみたいなおバカはさ、そういうの、やりたくてもできないからさあ。万事が思いつきのつぎはぎだらけ。でも、だから、切り換えポイントひとつぐらいどこかでひねられても、どうってことないw」「……なるほど」

 彼女のひと言で、なんだかスッと腹落ちがした。

 海岸から五十メートルぐらい沖合で、波に乗り損ねたサーファーが空中でもんどり打って一回転しているのが見えた。鮮やかなオレンジ色のパンツをはいている。しばらくして海面にせり上がって来た彼はボードに捕まりながら海岸で待っている仲間に向かって手を振っている。とても楽しそうに。

 僕の隣に座っているサーファーの女ともだちも鮮やかなオレンジ色のビキニを着ている。全身きれいに小麦色に焼けている。髪はソバージュ。

 「ワタシももうあと二年で四十の大台だよ。いつまでも肌なんか焼いてる場合じゃないんだけどね」「キミは、全然変わんないよ」「お世辞はいいから。……最近はシミが消えないからね、もうやけくそ。上書きして焼いてごまかしてんの」と彼女は笑った。笑ったときの目尻のしわが去年よりもほんのちょっとだけ深くなったような気がしたけれど、それは、彼女の深みがまた一年分増したということだ。すらりと伸びた長い脚から、今年も甘いココナッツオイルの香りがしている。



 8月である。台風も去ってようやく梅雨が明けた。去年より一ヶ月も遅い。というか、去年の梅雨明けが異常に早すぎたのだけれど。でも、そのせいか、35度を超す猛暑日なのに、明け方には蜩がもうかまびすしく鳴いている。盛夏と晩夏がいっしょにやってきたみたい。まさに、太宰治が『ア、秋』で書いていることだなあとしみじみ思う。

 秋ハ夏ト同時ニヤッテ来ル。と書いてある。
 夏の中に、秋がこっそり隠れて、もはや来ているのであるが、人は、炎熱にだまされて、それを見破ることが出来ぬ。耳を澄まして注意をしていると、夏になると同時に、虫が鳴いているのだし、庭に気をくばって見ていると、桔梗の花も、夏になるとすぐ咲いているのを発見するし、蜻蛉だって、もともと夏の虫なんだし、柿も夏のうちにちゃんと実を結んでいるのだ。
 秋は、ずるい悪魔だ。夏のうちに全部、身支度をととのえて、せせら笑ってしゃがんでいる。


jizoh

Summicron 35mm f2 2nd + MM

firework

FE 55mm f1.8 + α7s


 the last firework in this summer @donau river


imagine red

Lumix G Macro 30mm f2.8 ASPH. + GM1


 Imagine the color of watermelon.




 ホテルの部屋のドア下に、こんなレターが。

summer time


 Daylight Saving Time begins tonight/tomorrow morning.

 そうか、3月第二日曜日だ。DST、夏時間スタートの日なのである。リアルにその開始のタイミングに海外にいたのは今回が初めてだったのでちょっと感動してしまった。

 夏時間。DST。アメリカではdaylight saving timeと呼ぶ。まさに日照時間を有効に使うためのもの。でも、やっぱり名称はヨーロッパ式にsummer timeがいい。その方がロマンティック。春には夜の8時、そして夏には9時、10時まで空に明かりが残る。このままずっと日が暮れないのではないか。ひょっとして、永遠が垣間見れるのではないか。…そんな気分にさせてくれるサマータイム。悔しいけど西洋人は日々を美しくする演出に長けている。
 
 Ahead one hour.

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