naotoiwa's essays and photos

カテゴリ: asakusa

すみだ

Sonnar 5cm f1.5 (c-mount, black/nickel&chrome, pre war) + M10-P


 年の瀬に浅草。芥川龍之介の『浅草公園』を読みつつ。「セセッション風に出来上った病院」や「無数の手紙の折り重なった円筒の内部を現して見せる」透明になったポストや「ドレッスをつけ、扇を持った西洋人の女」の人形が並んだ射撃屋なんぞを探しながら。そして、最後はいつものように隅田公園に辿り着く。





 冬が近くなると、無性に浅草に行きたくなる。

 午後3時。田原町で地下鉄を降り、まずはパンのペリカンを覗いてみるが、案の定、食パンもロールパンもすべて売り切れ。棚にずらりと並んだ予約済みの食パンを眺めているうちに、どうしてもガマンができなくなって百メートルばかり歩いた先の直営のカフェに入り、炭焼きトーストを注文する。バターとジャムをたっぷり付けて食す。……とりあえず満足である。

ペリカン

 でも、さすがにトースト一枚だけでは腹は満たされぬ。ならば、もう一軒。今度は尾張屋に行こう。いつものように永井荷風先生に倣ってかしわせいろを注文しよう。

 さてさて、浅草に来たのだから、隅田川沿いに出て黄金のうんちでも眺めながら夕暮れ時の秋風に吹かれようか。それともやはりまずは浅草寺詣か。でも、お神籤を引くのだけはよそう。浅草寺のおみくじは凶ばかり出るからな。

 あるいは、浅草駅から東武鉄道に乗って東向島で降り、かつての玉ノ井あたりを散策するのはどうか。あるいは、ひさご通りまで歩いて行って、かつての浅草十二階に思いをはせるのはどうか。当時の遺構が出土したという話を最近ニュースで耳にしたばかりだ。あるいは、合羽橋に行ってレトロなデザインのコーヒーミルでも探すのはどうか。

 あれこれ迷いながらとりあえず田原町の駅まで戻ったところで、あ、そうだ、近くに等光寺があったっけ。……久しぶりに啄木さんの顔を拝んでいくことにしよう。啄木さんは相変わらずの泣き顔である。めそめそ泣いてる。こんな顔して彼はあのエロチックなローマ字日記を書いたのか? こんな顔して彼は浅草の夜に繰り出していったのか?

啄木

 あと30分ぐらいで日が暮れる。師走が近づくと日が落ちるのがめっきり早くなる。まもなく浅草の夜が始まる。さて、まずはどこの店に入ろうか。6時になったら国際通りのバー・フラミンゴが開くはずだ。そこでキース・ジャレットでも聞きながら、冬に相応しいカクテルでも飲むというのはどうだろう。……国際通りを歩く人の数がしだいに多くなってきた。

「浅草の夜のにぎはひに まぎれ入り まぎれ出で来しさびしき心」

all photos taken by Dallmeyer 1inch f1.8 + E-PM1


このページのトップヘ