naotoiwa's essays and photos

カテゴリ: mountain

mt.fuji

Summilux 50mm f1.4 ASPH. + M


 Mt.Fuji


夏山

GR 18.3mm f2.8 of GRⅡ


 夏山。




 先週の日曜日、久しぶりに山らしい山に登ってきた。奥日光の男体山。標高2486メートル。

戦場ヶ原

 朝の6時に二荒山神社を出発した。石段の先からいきなりの直登。途中一度だけ舗装された林道を経由したが、4合目からはまた直登。しかも6合目以降はガレ場ばかりのロッククライミング状態。息があがる。何度も腿を90度近く持ち上げなくてはならない。ついに9合目で右足にけいれんが来た。

 男体山。たしか30代の頃に一度登った記憶があるのだけれど、こんなにハードだったか。あれは同じ奥日光でも白根山の方だったか。それともここ20年でよほど体力が落ちてしまったのか。

 頂上はもうすぐそこなのに、これ以上どうやっても足があがらぬ。コースの端に体を寄せては何度も立ち止まる。10メートルほど先に、登りにも下りにもジャマにならないスペースを見つけた。座って両足を伸ばす。崖の真下に中禅寺湖が見える。ここでしばらく休憩。標準コースタイム超過やむなし。……目を瞑る。暖かい日差しが瞼の裏をオレンジ色に染めていく。

 「どうしました?」……涼やかな女性の声がした。気がつくとすでにその声の主はすぐ隣に座っていた。「足がつっちゃって、お恥ずかしい」「けっこうハードですもんね、この山」。でも、彼女の方は全然呼吸も乱れていない。「栄養補給にいかが?」ザックを肩から外し、中からドライフィグを出してくれる。乾燥いちじくである。

 「山にはよく?」と尋ねてみると「月に一度はどこかしらに登ってるかも」「ひとりで?」「ひとりの時もあるし、仲間といっしょの時も」……彼女はエヴィアンをふたくち飲んだ。とてもクールに。トレッキングシューズはガーモントの本格的なヤツ。グレーのパンツが赤土に汚れてしまうのも全く気にしていない。色白の横顔には汗の一粒も滲んでいない。

 それからしばらくの間、ふたりで山の話をした。登山を始めて5年。彼女は百名山の半分ぐらいはもうすでに制覇しているようだ。昨年は穂高の涸沢カールの紅葉も堪能したらしい。「ときどき、うんざりしちゃうんですよね」「……?」「言葉だけでなにかを決めたり、なにかが出来たような気になったりすることに」「……で、山に来る」「……こういう景色を見たかったら」「……見たかったら?」「自分自身の足でそこまで行かなくちゃ。自分だけの力で。でなきゃわたしたちにその権利はないと思う」

 ゆっくりと瞼を開ける。眼下に中禅寺湖。

眼下

 視界を右手にパンしていくと、今度は戦場ヶ原が見えてくる。昔、あそこで男体山の神様が赤城山の神様と戦って勝ったのだ。頂上にある剣はその時のシンボルなのだろうか。

 さあて、あと少し。「自分だけの力でそこまで行かなくちゃ、権利はない、か」……そう反芻しながら、腰を上げた。右足のけいれんもようやく収まった。仲間たちが頂上からこちらに手を振ってくれている。早く来いと手招きしている。でも、さっきまで隣にいてくれた彼女の姿はどこにも、ない。すでに森林限界を超えて、白いズミの花も咲いていない。春蝉の声も遙か彼方だ。

all photos taken by GRⅡ



 4年ぶりの鹿児島である。人工知能学会全国大会@城山観光ホテル。

 宿は、ちょっと遠いけどやっぱり今回もサンロイヤルホテルにした。理由は3つ。桜島一望の展望温泉があること、向田邦子さんが「鹿児島感傷旅行」で泊まった宿であること、あとは、すぐ近くに、ざぼんラーメン与次郎本店があること、であろうか。

 ホテルのHPにも記載されているが、向田邦子さんの『眠る盃』には以下のように書かれている。

 桜島といえば、サン・ロイヤルホテルの窓から眺めた
 夕暮の桜島の凄みは、何といったらよいか。
 午後の太陽の光で、灰色に輝いていた山脈が、
 陽が落ちるにつれて、黄金色から茶になり、
 茜色に変わり、紫に移り、墨絵から黒のシルエットとなって
 夜の闇に溶けこんでゆく有様は、
 まさに七つの色に変わるという定説通りであった。


 早朝、ホテルから歩いてすぐの長水路コースを散策する。すでに鹿児島は梅雨入りしていて、桜島がその全貌を現すことはないけれど、この季節ならではの幻想的な姿である。

長水路

Summilux 35mm f1.4 2nd + M9-P

 ホテルはここ4年でずいぶんと年期が入ってきたようだ。さて、自分はどうだろう。4年前の自分と今の自分。変わらないのは桜島だけ? 向田邦子さんはこんなふうにも言っているけれど。

 あれも無くなっている、これも無かった―
 無いものねだりのわが鹿児島感傷旅行の中で、
 結局変わらないものは、人。
 そして生きて火を吐く桜島であった。


富士見

M Rokkor 90mm f4 + M9-P


 富士見。


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