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Elmar
終着駅、あるいは侘び寂び
オールドレンズ&カメラの沼歴もかれこれ二十年。今まではけっこう美品にこだわり続けてきたつもりだが、例によって、そろそろ終着駅が近づいてきたようで、ブラコン(コンタックス Ⅰ)やA型(ライカ Ⅰ型)にばかり目が行くようになってしまうと、もはやそんなことは言っていられない。年代が年代だけに(1925年から1937年ぐらいまで)、ペイントロスのないものなんてあり得ないし、擦れ傷のないレンズなどかえって疑わしい。せいぜいが「キレイめ」のものを探すしかないわけで、でも、そうなると逆にその「キレイめ」に付いた擦れ傷や汚れが気になって仕方がない。で、だったら、いっそのこと徹底的にエイジングされているものの方が、ということになる。真鍮の下地がほぼ剥き出しになったもの、象嵌がほとんど溶けてしまっているものの方が潔くて美しく見えてくる。末期症状である。でも、よくいえば「侘び寂びの世界」でもある。また、これは、元来美品好みの自分の神経症をなんとか回避するための価値観の切り替えでもある。
ということで、ブラコンは、敢えてあのマニアックなシャッタースピード設定のない初期型の方がプロ好みだの、イチゴゾナーはニッケルとクロームのハイブリッドがおもしろいだのとうんちくを並べ、A型は、マッシュルームはエクボがあるやや後期のもののほうがいいだの、エルマー銘板のフォントが旧字でもゲルツ製とは限らないだの、メーター表示の方がラクだが近接タイプはすべてフィート表示だのと、ひとりブツクサつぶやきながら、手のひらにすっぽりと収まる絶妙の大きさ(というか小ささ)のボディや、初期型ならではの目地の粗めのグッタペルカを撫で回す。で、撫でれば撫でるだけさらにペイントは剥げ、グッタペルカのひび割れはひどくなる、ということになる。
XF 35mm f1.4 + X-T30 Ⅱ
ニコンのSレンズ
クセノタールなプラナー
かれこれオールドレンズ&カメラ歴もずいぶんと長いので、ほとんどのレンズに関してはその種類や特性についてそこそこ詳しいと思っていたが、先日、久しぶりに中判のローライフレックスに120フィルムを入れて撮影した後、書籍等でレンズ構成を改めて確認していて思いがけない発見をした。
十数年前、ご多分に漏れず私もローライのレンズはプラナーかあるいはクセノタールかでさんざん迷い、けっきょく両方買ったクチであるが、その違いはハッキリ言って未だよく分からない。プラナーの方がやや全体的に柔らかいかな? クセノタールの方がやや線が細くて精緻な感じかな? ぐらいのものである。
それよりも同じ中判用プラナー80mmF2.8なのに、ハッセル用のプラナーとローライのプラナーの違いの方が顕著に感じられる。ハッセル用のプラナーは後ボケも綺麗で柔らかくまさにポートレート向きであるが、ローライの方は中央の解像度は高いが周辺の収差が割と大きくてその分絵画的で面白い。いずれにしてもこの両者、同じ名前で同じ焦点距離同じ最小絞りのレンズには感じられないのである。
で、よくよくレンズ構成を調べてみたら、ローライのプラナーは定番のダブルガウス型とは言い難い。後群がトボゴン型なのである。(*ちなみにこれは80ミリに限ってのことで75ミリの方は通常のダブルガウス型)前群がダブルガウス型で後群がトボゴン型、つまりはこれ、クセノタール型なのである。要するにローライ用80 ミリのプラナーとクセノタールは、ほぼ同じレンズ構成だったのである。これではプラナーとクセノタールで写りにあまり違いが感じられなくて当然であろう。
さて。半分がトボゴン型と知って腑に落ちた。ローライの80ミリの写りが好きな理由。どこかちょっと危ういのだ。破綻する予感が片隅に漂っている。そんな全体の雰囲気の中で、フォーカスしたい対象物だけが浮きあがるように写る。
Planar 80mm f2.8 of Rolleiflex 2.8E2 + Delta400
教訓。いずれにしてもレンズ名はあまり鵜呑みにするべきではないということだろう。名前はプラナーでもその実はクセノタール型だったということだ。戦前のビオゴン35ミリも名前はビオゴンだがその実はゾナー型である。オールドレンズはまだまだ奥が深い。
ブラコンという病
現在、オールドカメラ&レンズ断捨離中。ふだん使わないものを潔く処分して、今後も使い続けていきたいものだけ残す、あるいは本当に自分が好きなものに買い換える。
で、ブラコンなのである。ブラザーコンプレックスのことではない。ブラックコンタックスである。天の邪鬼な私は、ライカよりもコンタックスのカメラとレンズに心引かれる。なかでも最初のレンジファインダーカメラであるコンタックスⅠ、通称ブラコン。
改めて、このブラコン、なんともマニアックなカメラである。操作しづらい。なんでここに巻き上げノブがあるの? どうしてシャッタースピードの設定にこんなお作法が必要なの? でも、測距の基線長がライカに比べて断然長くて正確だし(その代わりいつも右手で距離計窓を塞いでしまいがちなのだが)、リボンを使った縦走りシャッターの感触がタマラナイ。
若い頃から何度も使ったことのあるカメラだが、最近になってこのブラコン病がまた再発にしてしまっている。でも、なにせ90年も前のカメラで、なおかつこれほど複雑な機構のため、完調な個体に巡り会うことはますます困難を極めている。販売する方も保証期間に故障が頻発すると商売にならないのであろう。ブラコンの修理をこなせる職人さんもかなり減ってきたと聞く。2022年の今、再び実用に耐え得るブラコンを入手することはなかなか至難の業である。高速シャッターのムラはないか(リボンの左右ともがきちんと正しいサイズのモノにしてあれば問題は起きないそうだ)、ネズミ鳴きの低速シャッター時に光線漏れはないか、二重像の縦ズレはないか、などなど、クリアしなくてはならいポイントがいくつもある。
ということで、現在手元にあるブラコンは最初期の1932年のもの(ver2)。ネズミ鳴きのスローシャッターは付いていないが、その分カメラ自体の重量も軽く、これなら気軽に毎日持ち歩ける。このブラコンに基本中の基本の同年代のテッサー5cm,f3.5を付けて撮影。
Tessar 5cm f3.5 (C mount pre war) + ContaxⅠ + XP2 400
アンバー
神レンズ&カメラ
仕事でも趣味でも、今までいろいろなカメラとレンズを使ってきたが、その中でもやはり一番厄介というか難儀したのはハッセルのSWCではないだろうか。(三十代に何年か、そして最近になってまた79年製のSWCを使用している)
特殊なカメラというかレンズである。ご承知のようにビオゴンレンズのためだけにボディが存在しているこのカメラは広角38ミリ(35ミリ換算で21ミリ)。露出計なし、距離計なし。目測であることもかなり厄介ではあるが、超広角なのに周辺の歪曲がほとんどなく極めてシャープな写真が撮れるというその評判の高さこそがストレスになっているのではないかと思うのだ。というのも、そうした評判ほどの写真が実際のところはなかなか撮れないからである。自分の腕が悪いのか、それとも個体の状態が悪いのか。周辺は結構歪むし、どんなに絞り込んでパンフォーカスにしても遠景のシャープさは今ひとつ。購入したお店のご好意で個体のレンズ調整をお願いしたりもした。で、何度も試写し試行錯誤していろいろ悩んだ末の現在の結論は以下の通りである。
1)いかに神レンズのビオゴンであろうとも、完璧に上下左右とも1ミリの傾斜なく構えないことには確実に歪む。
2)いかにTコーティング付きのビオゴンがシャープといえども、所詮は1970年代のオールドレンズ。現代のレンズでデジタルの数千万画素のセンサーで写ったものと比較するのは意味がない。
その境地に達したところで改めて浮遊し続ける水準器に目を凝らして(ほとんど船酔いしそうになりながら)撮影したのがこの写真である。歪みほどんどなし、周辺まで柔らかくもシャープ。こうした写真が12枚のうちに1枚ぐらい撮れる。この不確実さ、でも一枚はアタリの写真が撮れる奇跡が起き得ることがハッセルのビオゴンが神レンズ&カメラである所以なのではと。
Biogon 38mm f4.5 of SWC + Portra120
M4 + Summilux
高速シャッターでムラが出てきたのでM4をオーバーホールに出した。6年ぶり。もともとはウィーン郊外の中古カメラ店で購入したこのM4、もう使い始めて二十年ぐらいになるだろうか。35ミリレンズで撮るには最適なファインダー倍率、露出計が付いてないから後玉が飛び出ているエルマリートの9枚玉やスーパーアンギュロンもストレスなく付けられる。バルナックやM3に比べればフィルム装填もやはり簡単で便利だ。
高速の1/1000シャッターが復活したところで、ズミルックス35ミリを最小絞りにして撮影する。この柔らかさと滲みと光の捉え方は、やはりフィルムならでは、そしてズミルックスならではだと思う。
Summilux 35mm f1.4 2nd + M4 + XP2 400