カテゴリ: winter
真冬の空
冬暁
冬景色
防雪服
一夜明けて
bonne année
merry Christmas
闇夜
いつもここから雑木林の中の道を抜け、駅の南口まで歩いて行くのだ。そうすれば3分ほど時間が短縮できる。ところが今夜はどういう訳か公園の入り口にロープが張ってある。立ち入り禁止。でも、構やしない。勝手知ったる道、ロープをまたいで進んでいく。
あたりが妙に暗い。まだ夕方の6時を過ぎたばかりだというのに空が真っ暗である。冬至に向かってどんどん日が短くなっているのはわかるが、まだ夕方の6時なのだ。なのに、この漆喰の闇。風はそよとも吹かぬ。大きな楢の木の脇を過ぎる時、突然右足がぬかるみに沈んだ。くるぶしまで泥に浸かる。立ち入り禁止の意味がわかった。先週まで続いていた大雨のせいで道がひどくぬかるんでいたのだ。
ようやくの思いで雑木林の中の道を抜け、通りに出る手前のところでいつものカフェの明かりが見えてくる。オレンジ色の灯火。ほっとする。ところが、中を覗くと店内には誰ひとりいない。その代わりに入り口近くのソファに古びたフランス人形が一体置かれている。
そのカフェを起点として続いていく通り沿いの商店街はほとんどの店がシャッターを下ろしている。でも、一軒だけ、白々とした蛍光灯が漏れてくるところがあった。今までに見覚えがない店だ。古本屋らしい。女店員がひとり、カウンターに座っている。いらっしゃいませ、と言って挙げた顔の左の頬に大きな赤い傷跡があった。首筋から目元にかけてほとんどえぐれているような大きな傷跡。一瞬ぎょっとしたが、「あ、すみません、まだハロウィーンの仮装のままなので」と彼女は言った。「先週オープンしたばかりなのです。大正時代の初版本とかいろいろ置いてあります。ごゆっくり手にとってご覧ください」
それから彼女はおもむろにこう言った。「11月に入ると闇夜が続きます。死んだ人がたくさん訪ねてくるからかもしれません。そうです、もう冬が始まってしまったのです」