naotoiwa's essays and photos

カテゴリ: book



 5限の授業が終わり、その日のとりまとめをして帰路につくと都内に戻ってくるのが19時過ぎ。で、代官山の蔦屋書店に寄るのである。夜の19時からは駐車場が無料になるので車で気軽に立ち寄れる。まずはいつも通り、アートや写真関連の売り場に行く。洋書類を実際に手にとって眺められるのはありがたい。で、次に文学関連の売り場に行く。季節の特集コーナーがある。今月の特集は「海」。今日も気温は28度まで上がった。夏も近い。もうすぐ海の季節ということで、古今東西の「海」にまつわる本が並べてある。たまには誰かがキュレーションしたものに素直に乗っかってみるのも悪くないだろう。

 タイトルもそのものずばり「海」と書かれた小川洋子さんの短編集を買うことにする。もう十年以上前に出版された作品だ。セルフレジで文庫本のバーコードをセンサーに当てる。432円。決済完了。自分で紙袋に入れる。

海

 家に帰ってさっそく読んでみた。標題の「海」もさることながら「風薫るウィーンの旅六日間」が良かった。小説らしい小説だ。いろんな偶然が重なり合って、……ううむ、こういうのを偶然性の必然性というのであろうか。思弁的実在論。まあ、それはともかく。

 舞台はウィーン。時は風薫ると書いてあるからちょうど今頃の季節であろうか。そして、場所はショッテントール駅周辺の養老院となっている。フロイト博物館の近くである。昔のウィーンらしさが色濃く残る大好きなエリアである。

wien

Summilux 35mm f1.4 2nd + M9-P







 キャリアデザインは自分の専門ではないが、2016年に出たこの本は衝撃的だった。以来、何度も読み返している。

ライフシフト

 50歳の時、自分たちの世代ですらもう従来の3ステージ型の人生設計ではダメだと覚悟を決めた。ちょうど震災の年でもあった。その頃すでにこの本が上梓されていたら、自分が何を為すべきだったのかについてもっと明確に認識できていたのにと思う。

 45歳を過ぎた頃から、広告分野以外の人脈をつくろうと躍起になっていた自分を思い出す。今までに培ってきた専門性にこだわりつつも、それを他の分野に広げていくための糸口をずっと模索してきたように思う。そのために何が必要なのか。2016年になってこの本を読んで、そのあまりに明解なネーミングに膝を打ったものである。「変身資産」……なるほど、自分が当時、必死になって養おうとしていたのはこれだったのか、と。

 「ライフシフト 100年時代の人生戦略」。改めて読み返してみるとそこにはこんなふうに書いてある。

 行動の仕方やものの感じ方だけでなく、ものの知り方を変えるとき、そう、なにを知っているかだけでなく、どのように知っているかを変えるとき、変身は起きる。

 そのためには、

 多様性に富んだ人的ネットワークをもっていること、新しい経験に対して開かれた姿勢をもっていること。

 あるいは、こんなふうにも書いてある。

 あなたのことを最もよく知っている人は、あなたの変身を助けるのではなく、妨げる可能性が最も高い人物なのである。

 確かにそうなのである。当時、付き合いの長い友人たちはあまり相談に乗ってくれなかったように思う。的確なアドヴァイスをしてくれたのは知り合って間もない新しい知人ばかり。結果、疎遠になってしまった親友も何人かいる。そういうのはせつないことなのだけれど。とてもとてもせつないことなのだけれど。。



 直木賞を受賞した門井慶喜さんの「銀河鉄道の父」、遅ればせながら読了。

銀河鉄道

 かの宮沢賢治は、なるほど、こんな家庭環境で育ったのかと合点がいったり、あるいは彼の意外な一面を見たり。そして、政次郎が娘と息子の死に立ち会う時、「これから、おまえの遺言を書き取る。言い置くことがあるなら言いなさい」……親より先に旅立つ子供に対してこう告げる父親の心情を思うと涙が止まらなくなった。

 全編興味深く読ませていただいた。そして、所々で門井さんご自身の人生哲学的な示唆がキリリと光っていた。例えば、賢治が質屋の跡取りとして客の相手をするのが苦手で、部屋でひとり本を黙読している場面での描写。

 何しろ相手は活字である。けっして怒らないし、どなりちらさないし、嘘をつかないし、ごまかさないし、こっちを混乱させるために故意にわけのわからないことを言ったりしない。こっちから一方的に中断したとしても抗議しない。或る意味、そこにあるには、主人と使用人の関係なのだ。そういう対話にあんまり慣れすぎてしまったら、人間というのは、こんどは生身の人との対話が苦痛になるのではないか。

 人と人との対話。……それはコミュニケーションの華である。相手にユーモアのセンスがあればこれほど楽しい時間はない。でも、時にそれは、嘘と皮肉と悪意に満ちたものにもなる。なぜならば、人はけっきょくのところ、自分が今まさに抱いている感情をベースにしたコミュニケーションしかできないからだ。さすれば、対話のコンテンツは相対性を失い、俯瞰でものごとが見れなくなる。「相手の気持ちになって」とはよく言われることだが、それよりもなによりも「自分の個人的な感情からニュートラルになって」対話することが、我々人間にはいかに困難であることか。

 そうしたコミュニケーションが続いて、心がホトホト疲れ切った時、我々は「本」の世界の中に逃げ込む。人間嫌いに陥りそうになる自分を、今まで何十回何百回、たくさんの「活字」たちが網膜の中で慰めてくれたことだろう。



 3年前に企業の職を辞した時、よーし、小説でも書くかと思い立ち、今年から大学で教鞭をとることになった時、よーし、学術本を書くぞと武者震い。でも、いまのところ、どちらも実現しておりません。すみません。

 で、いろいろあって、2017年も押し詰まった今、こんな本が完成しました。印刷見本が上がってまいりました。

drill


 世の中にクリエイティブ発想本は数多くありますが、そのほとんどは表現や伝え方のクリエイティブについて語ったものではないでしょうか。そうではなく、表現に至る手前の(あるいはその先の)モノの存在価値そのものを見つめ直すためのクリエイティブ発想本。そんな本が作れないかと考えたのが今年の春。あれから数ヶ月が経った結果、こうなりました。

おとなのための創造力開発ドリル
「まだないもの」を思いつく24のトレーニング


 コミュニケーションを研究する立場から、イノベーションとは何かについて考察した本です。メディアと表現を一体で考えられるようになるための本です。メディアアートの発想法の練習を試みた本でもあります。……なんて言うと、なにやら小難しそうに聞こえますが、これ、ドリルですから。練習帳ですから。

 文章は、なるべく軽やかに平易に書いたつもりなのですが、今読み返してみると、案の定、あまのじゃくなトーンがところどころに残っています。すみません。でも、共著の下浜臨太郎さんのイラストがとにかく可愛いのです。みなさんに、この本で楽しくラフに遊んでもらえたらと思っています。

 たぶん12月18日発売です。



 佐藤正午さんが直木賞を受賞した。昔からのファンとしては嬉しいかぎり。

佐藤正午

 受賞作「月の満ち欠け」は生まれ変わりがテーマ。佐藤正午さん得意の文芸サスペンス。でも、そうしたプロットが全くなくても、大学生の三角くんと人妻の瑠璃さんの恋愛ものとしてだけでも、この小説、読みごたえ十分。

 そして、無性にまた、あの懐かしの早稲田松竹で映画が見たくなってくる。

 それにしても。60歳を過ぎての直木賞受賞はめちゃくちゃカッコいい。おめでとうございます!



 突然ですが、「スーパードットなひとになる。」というタイトルの本を上梓することにしました。(発売は3月24日予定)電子出版および紙媒体はPOD(プリントオンデマンド)にて。

super dot pink


 スーパードットなひと。卓越した専門性を持ちつつ、専門以外の分野においても貪欲に自分自身のコンセプトと表現を探し出すマルチプレーヤー。そして、 あらゆるリベラルアーツに対して自分なりの美意識を持っているひと。そうしたスーパードットなひとたちが互いにダイレクトにつながりあって、世界中に張り巡らされていくクリエイティブのネットワーク。それこそがこれからの時代をつき動かしていく原動力になる。もう、組織の時代じゃないような気がします。組織の論理ではイノベーションは起こらない。デジタルファブリケーションが進化した現代だからこそ、もう一度「個」の時代がやって来るのではないでしょうか。
(本文より)


 ま、自分で言うのもなんですが、全編通じて、組織論とか既存の枠組みとかにあまのじゃくな著者がいかにも言いそうな文言がたくさん並んでいる本でありますがw これらは、ここ数年、私がさまざまなテクノロジストやアーティストの方々とのお付き合いを通じて感じてきたこと、彼らからいただいた言葉のいくつかから示唆を受けたことを今の自分なりにまとめてみたものです。

 特に、これからさまざまな「表現」に携わっていく若い人たちに読んでもらえたらと思います。いや、年齢は関係ないですね。思考し表現することに貪欲であり続けたいひとはすべて、心の片隅にいつもスーパードットな輝きを持ち続けていてほしいです。もちろんそろそろりっぱなシニア世代である自分への自戒も含めて。

 30ページ程度の本なので一気に読めます。ご興味のある方はどうぞ。ただいま絶賛予約受付中、だそうです!

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