書庫の整理をしていたら35年前に買った文庫本が出てきた。森瑤子さんの「渚のホテルにて」。買ったときの領収書がそのまま挟んであった。栞がわりに使っていたらしい。購入したのは代官山文鳥堂書店。今はない。日付は昭和62年5月6日。
Nikkor-P 10.5cm f2.5 ( S mount) + α7s
26歳のゴールデンウィークに、僕はこの文庫本を読みながらいったいどんなことを考えていたのだろうか。「渚のホテル」のイメージを追い求めて、取り壊しになる直前の逗子のなぎさホテルまで車を飛ばそうとでも思っていただろうか? 森瑤子さんの官能的でアンニュイな文章に耽溺していたあの頃。
35年ぶりに読み返してみると、第三章の「ウィークエンド」などは特に、複数の登場人物のセリフとそのト書きが過去と現在で交差し合って、シアターの桟敷席から上質な演劇を見ているような、そんな空気感に溢れた筆致である。改めて脱帽。