naotoiwa's essays and photos

カテゴリ: travel

空模様

Elmar 50mm f3.5 (early) + DⅢ + Ilford HP5 Plus 400


 昨日も秋にはときどきある、朝もひるも夕暮れのような空模様のまま夜になるとしぐれが来ましたが、(中略)じっと耳をすましてみますと落葉の音は聞こえません。ところがぼんやり読んでおりますとまた落葉の音が聞こえます。私は寒けがしました。この幻の落葉の音は私の遠い過去からでも聞えて来るように思ったからでありました。
川端康成『しぐれ』

川端康成『反橋/しぐれ/たまゆら』(講談社文芸文庫)p.24

見附島

Elmar 50mm f3.5 (early) + DⅢ + Ilford HP5 Plus 400


 traveling in Noto peninsula.


詩人の住む

Summilux 35mm f1.4 2nd + M10-P


 札幌は秋風の国なり、木立の市なり。おほらかに静かにして人の香よりは樹の香こそ勝りたれ。大いなる田舎町なり、しめやかなる恋の多くありさうなる郷なり、詩人の住むべき都会なり。

石川啄木「秋風記」より


pray

Summilux 35mm f1.4 2nd + M10-P


 @peace park


travelling

Nokton Classic 35mm f1.4 Ⅱ SC + M10-P


 now travelling.(研究出張中)




 コロナ禍に加え、ここ数ヶ月公私共々いろいろあってなかなか時間がつくれず、かといって次の論文の準備もしなくちゃならない。だとしたらこのタイミングしかないと久しぶりに超特急で研究出張に出掛けた。場所は山口。山口情報芸術センターの企画展示で見ておかなくてはならないものがたくさんあるし、山口と言えば中原中也の古里。記念館の過去のアーカイブから入手したい資料もたくさんある。ということで慌ただしく二日間が過ぎていくのであるが、瞬間空いた時間帯に昼食も兼ねて山口駅前の通りを歩いてみた。旅をしていての楽しみのひとつに何の予備知識もなく(ネット時代、この何の予備知識もなくというのが極めて困難なことではあるのだけれど)、自分の直感だけを信じてふらりと一期一会にいろんな店に入ってみることであるが、今回は、ネーミングに惹かれて二店ほど。

 ひとつは「月光カメラ」という名のフィルムカメラ店。古いローライフレックスが通りに面したショーケースに置かれている。はてさて名前の由来は月光菩薩か月光仮面か、ベートーベンかドビュッシーか(ちなみに今夜は部分月食が見れるかもしれない)、あるいはやはり印画紙の「月光」か。もうひとつは「もなの珈琲」。なんだろう、「もなの」って。けっきょくこの店でサラダ付きのクロックムッシュと珈琲のセットを頼んでしばし休憩することにしたのであるが、珈琲もパンも美味しく店の雰囲気も落ち着いていて直感は当たった。ただし、店名の「もなの」のヒントはどこにもなく(HP等を見れば出ているのかもしれないが)、名前の由来の謎はそのままに、店内に置かれている書籍やマンガ、雑誌の類いに目を通すとこれまたステキなネーミングのものばかり。「世界で一番美しい犬の図鑑」、そしてマンガの「スズキさんはただ静かに暮らしたい」が数巻置かれている。

 なんだか嬉しくなってしまった。時に世界は(あるいは神様は)偶然を装って、現在の自分の心境を的確に提示してくれるのだ。でも、「もなの」っていったいどういう意味なんでしょう? 

島巡り

Summilux 50mm f1.4 ASPH. + M10-P


 島巡り中。




 西伊豆の松崎を訪れるのは数十年ぶりである。

 ずいぶんと変わってしまっていた。……まずは、松崎プリンスホテルが、ない。立地と建物の構造はそのままだがまったく別のホテルに変貌していた。市内の長八美術館やなまこ壁通りは健在だが、向かいの伊那下神社の境内には不可思議な動物の木彫たちが所狭しと置かれている。

 国道15号線に沿って下田方面に移動してみる。町の名士である依田氏他の業績を展示する道の駅が出来ている。その先を左に折れると大沢温泉に着くはず。……ところが、あの大沢温泉ホテルが、ない。依田氏の末裔が江戸時代の建物を活かして作った松崎を代表する高級温泉ホテルだったのに。建物の一部は市に寄贈されて現在も見学可能とのことではあるが、数年前に廃業したらしい。そして、大沢荘も現在では露天風呂以外は営業していない。

 折しも桜の季節。変わっていないのは那賀川沿いに連なる桜並木だけ。桜祭りの名残の提灯が風に揺れている。。

那賀川

桜祭り

Summilux 50mm f1.4 ASPH. + M10-P



 伊豆の河津といえば、とにもかくにも早咲きの河津桜で有名。他にも薔薇の名所のバガテル公園には何度か行ったことがあるが、今の今まで、河津にこんなところがあるとは知らなかった。伊豆ならんだの里、河津平安の仏像展示館

 河津駅の近くの谷津橋(かつてはここが伊豆半島の海運の要所だったらしい)から車で坂道を7〜8分ほど。駐車場に車を止め、そこからさらに急な坂道を登る。ちょいと息があがるが、ようやく登り詰めたところからの山の紅葉が美しい。
 現在、展示館の隣には南禅寺(なぜんじ)のお堂が建っているが、八世紀、行基がこの地にインドのナーランダにちなんだ那蘭陀寺という名前のお寺を建立したのが始まりとのこと。しかし、十五世紀、この那蘭陀寺は山崩れにあい、安置されていた平安時代の仏像・神像のほとんどが土の中に埋没してしまった。で、のちにそれらを掘り起こし奉納したのが南禅和尚なんです、と地元の方が丁寧に説明をしてくださった。

 その仏像・神像群が素晴らしかったのである。約二十体ある像のうち、半分近くはお顔の原型を留めてないが、それでも、いや、それゆえにこそ、神々しさがひしひしと伝わってくる。プリミティブアート、あるいは抽象的なモダンアートを見ているような気分になってくる。三十分ほど魔法をかけられたように我を忘れて見入ってしまった。
 最後に、これらの仏像の多くがカヤの木の一木造りだと説明を受けながら、木の皮の甘みだけで煎じた甘茶をいただいた。そして、「これはその同じカヤの木のお札ですよ」といってお土産にもらった木札は、なんとも清々しいいい香りがした。悠久の昔に誘ってくれるような。……

南禅寺






 先日、仕事で地方都市に行ったときのこと。

 夕方には打合せも終わり、ラッキー、夜はフリータイムだ、帰りは翌日の朝、とりあえず宿も取ったしこれからどうしようかな、という時の楽しみのひとつに映画館でレイトショーというのがある。東京の六本木や日比谷のオシャレなシアターで映画鑑賞もいいけれど、こじんまりした街の、ちょっと古びた映画館の座席の隅っこにこっそりひとり異邦人として紛れ込み、地元の人たちの方言を小耳に挟みながらポプコーン片手にレイトショーを見るというのが私の密やかな愉しみのひとつなのである。

 このために、今話題の「カメラを止めるな!」を東京で見るのを今までガマンしていたのである。ネットでチェックすると、宿泊予定のホテルから徒歩十分のところの映画館で夜の9時から11時まで上映中。座席の予約をする。上映開始まで近くの店で腹ごしらえをしてからグーグルマップの導くまま映画館に向かう。

 ポプコーンとコーラのセットを買って前から三番目の一番端の席に座る。まわりは若いカップルばかりだ。彼ら彼女らは、この街特有の優しく柔らかいイントネーションで平日の夜の会話を愉しんでいる。

 さて、「カメラを止めるな!」、すでに見てきた人からネタバレギリギリでいろいろ内容を聞いてしまっているので(というか、みなさん、頼みもしないのにペラペラと話してくれるのだ)、ただのスプラッターものでは終わらないことはわかってはいたものの、この映画館のこじんまり&しみじみした感じと相まって、前段が終わった時点で、アハハ、ちょっと安っぽかったけどナカナカのホラー映画だったなあ、もう十分満足という気分になってくる。そのくらい、非日常の街の映画館で楽しむレイトショーには風情があるのだ。

 だからといって、もちろん途中で席を立つことはなく、このヌーベルバーグの再来のようなホラー&コメディ映画を二時間たっぷり堪能してから11時過ぎに映画館を出て、ゆっくりと夜空の月でも見上げながら近くの神社に行き、真夜中のお参りをすることにした。二礼、二拍、一礼。本日も、とても良き日をありがとうございましたっ、ということで。

真夜中

GR 18.3mm f2.8 of GRⅡ

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