「あなたは自分の完璧さについての幻想を捨てるべきだと思うわ。自分でも幻想だとよくご存じのはずですから。ほかの人間とうまくやっていくことを学ぶべきよ。英雄の時代は終わったの。いまは人間の時代。あなたが想像しているよりもずっと深い意味でね。人はもう聖人にならなくていいし、罪を罰せられることもないの。誰が正しいわけでも間違っているわけでもなくて、みな同じ運命、みな同じ人間——そして人間は完璧じゃない。明日かれらの間違いを証明してもあなたが得るものは何もない。ただそうするのが現実的だから、こころよく降参しなきゃいけないの。かれらが間違っているからこそ、あなたは黙っているべきなの。そのことで感謝されるでしょう。譲歩しなさいよ。そうすれば相手も譲歩してくるわ。持ちつ持たれつ。与えて受け取るの。折り合いをつけるの。それがこの時代のやり方。あなたも受け入れるときと。そんなことをするには善良すぎるなんて言わせないわ。そうじゃないことはわかっているはずよ。わたしがそれを知っていることも、あなたにはわかっているの」
アイン・ランド『肩をすくめるアトラス 第二部 二者択一』(2014年、アトランティス)p.216
もちろん自分は全くもって聖人でも英雄でもないが、60歳を過ぎた今になっても、こうした言葉をなかなか素直に受け入れられない人間のままである。それで損をしたことは今までに何度もあるのだけれど。まあ、こればっかりは仕方がないですね。