naotoiwa's essays and photos

カテゴリ: music



 都心でも最高気温が10度を下回った。真冬である。悪くない。

 元来、僕は冬の方が好きなのだ。夏は苦手。もちろん夏という季節に憧れはあるものの、生理的にダメ。夏は冷える。冷房で冷えるし、汗をかくだけで体が冷える。そもそも汗をかくのがキライ。一枚しかない皮膚はこれ以上脱ぐことができない。その点、冬は暖かい。着込めばいいのだから。足元を温めれば、頭寒足熱。アタマはキリリと冴え渡る。

 冬の昼間はあっという間に終わる。「雲ひとつなく昼は過ぎて、なにもかも最後まで美しかった」。ずいぶん早い時間から闇夜が口を開けて待っている。夜は長し。だからその分だけ、たくさんの秘密が待っている。意味のある言葉なんか要らない。ヴォーカリーズ。





 今日はジョン・レノンの命日。

 



今、論文でも太宰治のこと書いてるし。さっそく見てきたけど、ナカナカでした。
蜷川演出、耽美なり。三人の女のテーマ別カラー演出もわかりやすいし。

そしてなによりも、音楽が三宅純さんですからね。これは良いに決まってます。



 地階のジャズ喫茶である。70年代からずっとあった。階段を降りていくと、湿気た匂いがプンとして、出てくる珈琲は酸いた味がした。けれど今は違う。現代に生き延びるためにはジャズ喫茶も変わらなくてはならない。店内はずいぶんと明るくなった。大型の業務エアコンからはキリリと冷えた冷気が流れ出し、空気清浄機が饐えた匂いを除去している。古めかしいJBLのスピーカーは健在だが、真空管アンプもLPレコードプレーヤーも姿を消した。ピアノ曲がクリアなデジタルサウンドで流れている。明るいジャズ喫茶、と僕はつぶやく。

 それでも客はあまり入っていない。若い女の子がひとりだけ、一番隅のテーブルで壁に上半身をもたせかけながら文庫本のペエジを繰っている。空調が効きすぎて寒くなったのか、彼女はトートバックから黒いカーディガンを取り出してノースリーブのワンピースの肩に羽織った。それからしばらくして。キース・ジャレットが流れ出すと、彼女はカチリと銀製のライターで煙草に火を付け、目を瞑って聴き入った。シャープな横顔のシルエットが紫煙に揺れている。

 それを遠くから眺めながら、僕はちょっと救われた気分になる。今でもこうした若い女の子がいることにホッとする。群れずにたったひとり、読みたい本があって。煙草の吸い方が格好良くてキースが好きで、静かに自分の内面と向き合いながら「思案に暮れる」若い女の子が、今でもちゃんと存在していることに。

 Keith Jarret, My Song。この曲を初めて聴いたのは、僕が彼女と同じくらいの年頃だったろうか。




 





will you dance? will you dance?
smell of caviar and roses.
teach your children all the poses.
how familiar are we all.
will you dance? will you dance?
light fantastic in the morning.
how romantic to be whoring.
boring though it may be.
who'll survive if you and I should fall?

lyric by Janis Ian


踊りましょ。
キャビアと薔薇の匂い。
子どもたちには見せかけだけも教えてあげましょ。
私たちがみんなどんなに親密かってこと。
さあ、踊りましょ。
朝の輝く光はなんて素敵なんでしょう。
でも、娼婦のように淫らになるのもロマンティック。
退屈するかもしれないけれど。
いずれにしても。
あなたと私が死ぬべきだとしたら、
いったい他の誰が生き残るっていうの?

(拙訳)



 ボズ・スキャッグスが来日していたようである。御年74歳。

 ボズ・スキャッグス。AORの帝王。アルバム「ミドルマン」のジャケットはホントにカッコ良かった。当時の二十歳前後の男どもはみんな、このアルバムの曲をダビングしたカセットテープをセットして女の子をドライブに誘った。東京に実家のある友人は親に買ってもらった赤いスポーツカーで、地方出身の友人はバイトで貯めたお金で買った白い国産車で。いずれにしても、クルマがないとお話にならない。クルマを持ってないと(ゴージャスな)女の子にはモテない。で、海や山のリゾート地に行き、夜はディスコで踊るのだ。そして、チークタイムになれば必ずこの曲がかかる。



 あの時、チークダンスを踊ったカップルたち。そのほとんどはのちに別れ別れになり、そのうちの幾組かだけは奇跡的にゴールインした。

 いずれにしても。我々世代のアドレッサンスは、80年代、ボズ・スキャッグスの甘くて都会的な歌声とともに始まった。あれから30年余。いろんなことが積み重なって、我々はもうすぐ60歳を迎えようとしている。さすれば、我々の憧れだった兄貴分もおのずと74歳にもなるというものだ。

 ちなみに、私がこのアルバムの中で一番好きだった曲はこれ。



 I am falling, back into your spell, back into a cell of no return. No way to rescue me.






 
Oh, see there beyond the hill.
 The bright colors of the rainbow.
 Some magic from above.
 Made this day for us just to fall in love.

rainbow


 
Someday we shall return.
 To this place upon the meadow.
 We'll walk out in the rain.
 Hear the birds above singing once again.




 心奪われるメロディがある。例えば、アイルランド民謡の Woman of Ireland。

 初めて聞いたのは、大学1年生の時。ボブ・ジェームスのレコードにフィーチャーされていた。




 それから、かつてはケイト・ブッシュのボーカルで、今ではフランス人のノルウェン・ルロアの歌声が好みだ。




 そう言えば、70年代のキューブリック監督の映画「バリー・リンドン」の中でもこの曲、効果的に使われていた。

 アイルランド。行ってみたい。






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