若い頃に何年か住んでいたこともあって、鎌倉にあるお寺の仏像はほとんど全部見ているのではないだろうか。で、なかでもいちばん好きなのは、覚園寺は薬師堂本堂の日光・月光菩薩である。
覚園寺と言えば黒地蔵や、川端康成が愛した鞘阿弥陀仏で有名だが、元々は現在大河ドラマで主役の北条義時が薬師堂を建立し、元寇の後に北条貞時が、そして足利尊氏が再建した(尊氏自筆の記銘が梁に残っている)本堂に安置されている薬師如来や十二神将像が素晴らしい。で、その薬師如来の脇を固めるのが日光・月光菩薩である。
二十七歳の時に初めて見た瞬間、すぐに心奪われた。細面で人肌のようなベージュ色のお顔、少し前屈みの姿勢、月光菩薩に至っては頭部を少し内側に(薬師如来の方に)傾けていらっしゃる。その可憐で優美なこと。一目惚れである。後背には半人半鳥の迦陵頻伽が舞っている。異国情緒もたっぷり。
それから何度も、憧れの想い人に会うように胸ときめかせて覚園寺に足を運んだ。以前は予約制でミニツアーに参加しながら敷地全体を見学するシステムだったが、現在は時間内であればツアーに参加せず拝観料を払っての自由参拝となっているようである。
川端康成が足繁く通ったのも、鞘阿弥陀仏もさることながら、実はこの日光・月光菩薩こそがお目当てだったのではないかしらなどと邪推してしまいたくなるような艶美さ。作者は、室町時代の仏師朝祐(ちょうゆう)。
Heliar 50mm f1.5 + M10-P
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