映画「ドライブ・マイ・カー」がベルリン、カンヌ国際映画祭受賞に続き、アカデミー賞作品賞他の候補に、とのことである。原作を読んだ際、SAAB 900のコンバーティブルとか(映画ではサンルーフ付きのハードトップになっていた)、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」とか、ちょいと個人的に苦手(というか自分の青春の恥部と言うべき)ものにヤラれてしまって、今まで映画を見るのを敬遠していたのであるが、こ、これは、……原作に確かに立脚してはいるものの、濱口監督、大江さんがオリジナルに「脚本賞」を受賞した理由に納得させられた。映画「ドライブ・マイ・カー」は東京、広島、北海道、(そして韓国?)をつなぐロードムービー大作である。そして、イマドキ敬遠されがちな言葉の独白だけのロングショットの数々、3時間があっという間に過ぎた。でもって、三浦透子さんがとにかくカッコいい。

 ネタバレになってしまうといけないので映画のストーリーについてはここには書きませんが、また昔に戻って(?)無性に煙草を吸いながら車の運転がしたくなる映画です。車を疾走させながら煙草の煙を肺の深くまで吸い込み(いくら体に悪いと知ってはいても)、ふうっーと吐き出さないことには紛らわすことのできないことが人生にはまだまだたくさんあるような気がします。

 そして、車の運転が上手な女性について。個人的にそうした女性は今までに何人か知っていますが(彼女たちはみんな左ハンドルのマニュアル車を、右手の手首を優雅にくねらせながらシフトチェンジしていた)、その上手さはそのままスピード超過であの世に繋がってしまいそうな浮遊感と表裏一体でした。そうではなく、「渡利みさき」さんみたいに、助手席に座っているひとをこちら側の世界にしっかりと繋ぎとめ、無言で人生の再生を促しながら走り続けてくれる運転の上手な女性には、残念ながらまだ出会ったことがないように思います。