お気に入りの珈琲焙煎スタンドがあったりもするので、今でも月に何度かは代官山まで歩いていく。
 
 代官山には80年代の後半に数年間住んでいた。本多記念教会のあるあたり、八幡通りから東横線の線路沿いに至る界隈が特に好きである。そして、当時はその中心に同潤会代官山アパートメントの “森” があった。住民でもないのに週末に代官山食堂で夕食を食べたり銭湯の文化湯に入ったこともある。今では隣接していた蕎麦屋の福招庵だけは健在だが、あとは、当時の写真をパネルにしたアーケードと文化湯のタイル絵が代官山公園に残っているばかり。

文化湯

Biogon 35mm f2.8 (pre war) + Contax II + Delta400

 あの頃の代官山は、この同潤会アパートメントの “森” が想像力を搔き立ててくれる、レトロモダンな物語の場所であり、そして80年代アパレル文化全盛の発信地でもあった。代官山と言えば BIGI グループだが、二十代後半の自分にとっては旧山手通りの TOKIO KUMAGAI の路面店が憧れの場所だった。サラリーの大半をつぎ込んで毎月“着倒れ”である。現代のファストファッションの、カッコ悪くなけりゃそれでいいの感覚からすると、やはりバブリーで “クリスタル” な時代だったのかもしれない。ちなみにパンは今でも代官山のシェ・ルイに買いに行くのであるがw

 同潤会代官山アパートメントについては、三上延さんの小説『同潤会代官山アパートメント』、そして、ハービー・山口さんの写真集『代官山17番地』が秀逸である。