大好きな吉田篤弘さんの小説『つむじ風食堂の夜』(映画のロケ地函館にも足を運んだ。食堂のモデルとなったJOEカフェとか来々軒とか、月舟アパートメントの旧ロシア領事館とか)の中に、ふたつの机のくだりがある。


 屋根裏部屋にはふたつの机がある。ひとつは<雨の机>。もうひとつは<その他の机>と名付けている。(中略)向かって右を<雨の机>とし、そこでは、積年のテーマである「人工降雨」に関する研究をしたためることにした。(中略)向かって左の<その他の机>。その机で私は、およそありとあらゆる雑文を請け負っては書き続けていた。

吉田篤弘『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫、2005年)


 この<雨の机>と<その他の机>を意識しているわけでもないが、私の場合は<雨のカメラ>と<その他のカメラ>である。朝起きてシトシトと雨が降っていたりすると、頭の中の襞も潤って持病の偏頭痛も収まり、さあて、今日はどの雨靴を履いていこうか、どんなコートを羽織ろうかと心ときめいたりするのであるが、そうした雨の日の外出には必ず<雨のカメラ>も持参する。雨の日専用カメラといっても防水加工が施されている最新のカメラではなく、古い1960年代のオリンパスPen Fである。ハーフサイズカメラで36枚撮りのフィルムを入れると合計72枚の縦長写真が撮れる。これにやや高感度のISO400のフィルムを入れ、やや望遠気味の明るい40mmのレンズを付けて、映画のシナリオを絵コンテで描くように雨の日のストーリーを気の向くまま無造作に紡いでいくのだ。

rain

G-Zuiko Auto-S 40mm f1.4 + Pen F +Kodak400


 小さい頃から雨が好きだった。空全体が乳白色に包まれ天から水滴が落ちてくる「奇跡」。それに引き換え、なんのフィルターも通さず太陽光を直接浴びせられる雲ひとつない日は、今でも少し怖いままである。