世界は乳白色の雨雲にすっぽりと覆われてしまっている。どこにも青い穴はあいていない。そこから光が差し込んでくることもない。

 地上のあらゆるものが潤んでいる。私の頭の中の襞も柔らかく潤んで心地よい。あらゆるものにしっとりとフォーカスが合ってくる。逆に晴れの日が続くと私は偏頭痛に悩まされる。ふつうは反対でしょ、とひとは言う。ふつうのひとは低気圧が近づいて来たときに頭が痛くなるわけで。

 梅雨空。六月の木曜日の午後五時。ぬかるんだ道をビニール傘を差した人たちが家路を急いでいる。雨の匂いがぬうっとする。草の匂いがむうっとする。雨に閉ぢ込められると、時間がどちらに流れているのかよく分からなくなる。そんな時、私はいつもここで、誰かがやってくるのを待つ。

 時折大声で、もういい加減にして欲しい、と叫びたくなることがあるでしょ、とわたしが云う。とっとと元に戻してほしいんだけれど、と私が云う。そろそろ滅ぶのかな? なにが? あなたが? わたしが? 世界が? 上映時間が終わるのかな? 「世界五分前仮説」が正しいとしたら、それはたった5分間だけのことだけれどね、とわたしが云う。

ぬかるみ

Zunow-Elmo 13mm f1.1 + Q-S1