「瀬戸正人 記憶の地図」展を東京都写真美術館で見た。瀬戸正人さんは私が90年代からずっと憧れ続けている写真家のおひとりである。
 瀬戸さんの撮るポートレイト、そのほとんどの場合、モデルたちの目線はカメラに向いていない。カメラに気付かれない瞬間を狙っているのではなく、むしろその逆で、モデルたちはカメラを意識しつつもファインダー越しに見られることに倦み、自身の内省へと沈潜を始めている。その時間帯をカメラが暴いているのだ。結果、モデルたちの個性ではなく(と、このインタビュー映像の中で作家自身も語っている)、人間そのものの本質、いや、人間を越えて生き物の本性みたいなものまでが滲み出ているように感じる。
 緊急事態宣言初日の午前中ということもあって、幸か不幸かほとんど貸し切り状態で、約二時間、じっくりと写真展を鑑賞することができた(もちろん館内の万全の感染防止対策のもと)。会場内撮影OK とのことだったが、iPhone やデジカメを向ける気分にはならない。鞄の中に古いコンタックスのレンジファインダーカメラが入っていたので、コリコリと距離計を、俯いて涙を流している女性の瞳や公園にピクニックに来ているカップル達の不可思議な肢体に合わせてみたりしながら。

 会期は今月24日まで。