熱帯夜が続いている。冷房が苦手なので枕元の窓を少しだけ開けて網戸にして床につく。

 夜中になんとも濃密な甘い香りが漂ってきて目が覚めた。そのまま寝付けなくなって庭に出てみた。山百合が咲いている。匂いの主はどうやらこいつらしい。まだ咲ききっていないのに、なんとも妖艶な香りだ。

山百合

Elmar 35mm f3.5 L + fp + Color Efex Pro


 向田邦子さんのエッセイ『夜中の薔薇』を思い出した。「野中の薔薇」ならぬ『夜中の薔薇』である。

 「童は見たり夜中の薔薇」
 暗い道を走りながら、気持のなかで歌ってみた。
 子供が夜中にご不浄に起きる。
 往きは寝呆けていたのと、差し迫った気持もあって目につかなかったが、
 戻りしなに茶の間を通ると、夜目にぼんやりと薔薇が浮かんでいるのに気がつく。
 闇のなかでは花は色も深く匂いも濃い。


向田邦子『夜中の薔薇』より


 もともと山百合は匂いが強いが、確かに「闇のなかでは花は色も深く匂いも濃い。」

 案の定、その後、明け方まで眠れなくなった。花の香と虫のざわめきに包まれていろんなことを思い出した。幸いにも世の中は思い出すことに満ち満ちている。