毎年、梅雨時から夏にかけて読み返す本がある。それは、江國香織さんの『なつのひかり』。今の季節の描写がなんとも瑞々しいのだ。例えば、

 「やわらかでかなしげな、とろとろとした夏の風。」

 「貼れた真昼の日盛りよりも、こんな風に曇って湿度の高い遅い午後の方が、夏の息づかいというか
 体温というか、ある種邪悪な匂いが濃いと思った。」

 「雨は、爽快なほどはげしい音をたてて降り始めた。夕立ち特有の、不穏でほこりっぽい匂いがたち
 まちあたりにたちこめる。」

江國香織『なつのひかり』(集英社文庫、1999年)より


 でも、この『なつのひかり』、江國さんの作品としては珍しく、かなりシュールな小説である。ふしぎな「やどかり」が出てきたり、ふしぎな双子が出てきたり。

 夜更けまでこの本をずっと読んでいたからだろうか、今日の明け方に見た夢は、なんともシュールなものだった。たっぷりと雨を吸い込んだ草木たちに両側を囲まれた一本道を、僕はただひとりどこまでも歩いて行く。春に鳴いていた鳥たちの声が遙か彼方から微かに聞こえているばかり。百時間ぐらい歩いたところでようやく誰かの声が足元から聞こえた。もうすぐ満天の星空が見える広場に着くからと。その声の主が「やどかり」だったという夢だ。

坂道