その女は俯いて、ひとりで一心不乱に本を読んでいた。わたしの座っている場所からは、女の後ろ姿しか見えない。女は黒いセエタアを着ている。ワンレングスに切りそろえた首筋が抜けるように白い。真鍮の灰皿の中に置き去りになった煙草の紫煙が、女の付けている香水と混ざり合い、時折ここまで漂ってくる。店内には、古いシャンソンが流れている。