そろそろ、ラストオーダーになります、とバーテンダーの人が言った。もう一杯だけマッカランをください、とわたしは言った。胸の中がざわめいている。過呼吸になりそうな感じ。ふっと、意識が揺らぐ。さっきまでカウンターの奥でひとりビールを飲んでいたひとが、隣に来てわたしになにか言っている。カウンターに突っ伏したわたしに顔を近づけてなにか言っている。

 このひとは誰だろう。初めて見かけたひとだ。でも、わたしにはわかる。この、今わたしのすぐ近くにいるこのひとが、わたしにとってとても大切なひとだということが、なぜだかわたしにはわかる。ずっと前から、わたしはこのひとのことを知っている。このひととのことはなにもかも憶えている。

 わたしの記憶の中で、フィルムが急速に巻き戻り出したのがわかる。そして改めて、再生ボタンが押されるのがわかる。また最初から?

 面倒臭いなあ。ちょっとだけわたしはそう思う。でも、このひととなら、何度だっていいじゃない、と思い直す。前に会ったときも、ワクワクすることがたくさん、いっぱいいっぱいあった気がするよ。

nous deux

Summitar 5cm f2 + M9-P