伊豆の河津といえば、とにもかくにも早咲きの河津桜で有名。他にも薔薇の名所のバガテル公園には何度か行ったことがあるが、今の今まで、河津にこんなところがあるとは知らなかった。伊豆ならんだの里、河津平安の仏像展示館

 河津駅の近くの谷津橋(かつてはここが伊豆半島の海運の要所だったらしい)から車で坂道を7〜8分ほど。駐車場に車を止め、そこからさらに急な坂道を登る。ちょいと息があがるが、ようやく登り詰めたところからの山の紅葉が美しい。
 現在、展示館の隣には南禅寺(なぜんじ)のお堂が建っているが、八世紀、行基がこの地にインドのナーランダにちなんだ那蘭陀寺という名前のお寺を建立したのが始まりとのこと。しかし、十五世紀、この那蘭陀寺は山崩れにあい、安置されていた平安時代の仏像・神像のほとんどが土の中に埋没してしまった。で、のちにそれらを掘り起こし奉納したのが南禅和尚なんです、と地元の方が丁寧に説明をしてくださった。

 その仏像・神像群が素晴らしかったのである。約二十体ある像のうち、半分近くはお顔の原型を留めてないが、それでも、いや、それゆえにこそ、神々しさがひしひしと伝わってくる。プリミティブアート、あるいは抽象的なモダンアートを見ているような気分になってくる。三十分ほど魔法をかけられたように我を忘れて見入ってしまった。
 最後に、これらの仏像の多くがカヤの木の一木造りだと説明を受けながら、木の皮の甘みだけで煎じた甘茶をいただいた。そして、「これはその同じカヤの木のお札ですよ」といってお土産にもらった木札は、なんとも清々しいいい香りがした。悠久の昔に誘ってくれるような。……

南禅寺