まあ、100%あり得ないことだけれども、自分がこの先万が一にも富裕層にでもなって何不自由なくお金を使えるようになったとしたら、いったい何を手に入れたいだろう。……そう考えてみるのは悪いことではない。自分が最も欲しいものとは何なのか、自ずと分かってくるはずだから。
 さて、何を買いましょうか? 高級腕時計? 車はスポーツカーかヴィンテージカー? 高級マンションあるいは海辺の別荘? ヨットや自家用ジェットは? ……ま、それらの中のいくつかはあってもいいけど、さほど食指は動かない。

 世の中のほんとうの大金持ちが究極望んでいるものは何なのだろう? すでにあらゆる物品を手中にした者が最後に望むもの。それは、おそらく不老不死ではないだろうか。
 『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の次作『ホモ・デウス』を読んでいて、なるほどと思った。有史以来すべての生きとし生けるものは、不老不死なんて荒唐無稽な夢物語に過ぎないと諦めていたが、昨今のバイオテクノロジーとAIの劇的な進化によってここ数十年のうちにそれが実現しうると予測する科学者もいる。ここに来て、人間は「神」になってしまう可能性だってあるのだ。ただし人数限定。巨大な権力と巨額のお金を持っている人のみ不老不死の切符が手に入る。

 さて、話を戻して、自分がこの先万が一にも富裕層にでもなって何不自由なくお金を使えるようになったとしたら、いったい何を手に入れたいだろう。自分が最も欲しいものとは何なのか。
 自分なら、どんなに大金持ちになろうとも不老不死なんていらない。永遠に生き続けるなんてまっぴらご免だし、自分の肉体や頭脳だけ若返っても意味がない。でももしも、この世界全体の時間を巻き戻せることができたなら、過去の自分と過去の世界にタイムマシーンで戻れる切符が手に入るのなら、自分は惜しげもなく全財産を使い果たすのではないだろうか。究極のゼイタクとは、過去を取り戻すことだと思うから。過去は未来なんかよりもずっとずっとゼイタク品だと思うから。
 VRやAR技術の進化で、過去の時間にタイムスリップしたような幻視体験はできるようになるかもしれないが、この先、どんなにテクノロジーが進化しようとも「時」を自在に制御することだけはまったくめどがたっていない。