フィルムカメラが好きである。4Kデジタルカメラが当たり前の時代になっても、相変わらずフィルムカメラが好きである。たぶん、自分にとってそれはクロッキー帳みたいなもので、ひとりで旅をしているとき、あるいは日常の散歩のとき、気になった情景をペンシルを手に紙にさらさらっと描いてみる。そんな感覚でフィルムを巻き上げ、シャッタースピードと絞りを決めて、フレームだけのファインダーを覗き、ゆっくりとシャッターボタンを押すのだ。

 ゆえに、このクロッキー帳は、どこに行くにも鞄の中に気楽に入れられるサイズでなくてはならない。そのうえで、手に持ったとき、しっくりとくる重さと形状でなくてはならない。

 ということで、35ミリフィルムカメラならば、レンジファインダーのライカ、それもM型ではなくバルナックライカがやはり最適なのではないかと思うようになる。それも、微妙に一回り(2−3ミリぐらい)サイズが小さくて、微妙に(20グラムぐらい)重めの初期の板金タイプのものがいいと思うようになる。板金タイプと言えばDⅡやDⅢ。黒塗りの象嵌にニッケルタイプのレンズを付けるのが定番だけれど、あれはさすがにクラシック過ぎる。通常のクロームタイプの方がいい。となると、行き着く先はⅢaかⅢb。

 ところで、M型ライカになくてバルナックライカにあるものが視度調節レバー。近視で眼鏡越しにファインダーを覗く者にとってこれはまことにありがたい。二重像がキリリと引き締まるのである。で、その視度調節レバーがフォーカシングファインダーに付帯しているのがⅢa。Ⅲb以降は巻き戻しレバー側に移る。フォーカシングファインダーとフレームファインダーは近い方がもちろん便利なんだろうけど、デザイン的には視度調節レバーがファインダーに付帯したⅢaの方が格好いいと思う。

Ⅲa

 さて、手元にあるⅢa、シャッタースピードダイヤルの形状がなんだか怪しい。底蓋にも明らかに修繕した跡が見られる。でも、その分、戦前のライカとは思えないくらい美品だしハーフミラーも交換されている。実用だから詳細な時代考証にこだわる必要はない。このサイズと重さの絶妙のバランスさえ担保されていれば、我が理想のクロッキー帳となるのである。