犬の気持はたいがいわかる、なんて言っておきながら、先日、彼女をひどい目に遭わせてしまった。花火大会に連れて行ったのである。人混みをかき分けて、打ち上げのすぐそばに場所を確保。で、いよいよ打ち上げ時刻となりカウントダウンが始まった。10,9,8,7,6,5,4,3,2,1。

 第一発目が打ち上がり夜空で破裂した瞬間、彼女は猛然と暴れ出した。抱いていた家人の腕がひっかき傷でミミズ腫れになるくらいに。そんな状況になるとは予想だにせず、すぐ近くでカメラのシャッターを切っていた自分が情けない。家人の腕から引き取って抱き抱えると、彼女は今まで聞いたことのないような悲鳴を上げていた。肉食動物に捕獲され首根っこにトドメの牙を刺された時のような、まさに断末魔の悲鳴。彼女が腕から飛び出しそうになるのを必死で取り押さえる。緊急事態である。急いで会場を抜け出さねば。でも、人混みに阻まれてなかなか動けない。彼女を抱いたまま脇道を懸命に走る。

 こうして10分間、走りに走ってようやく五百メートルぐらい遠ざかった。それでも、打ち上がる度に彼女は悲鳴を上げ続けた。

 普段、犬の嗅覚や聴覚は人間とは比べものにならないくらいすごいんだからね、なんて知ったかぶりしておきながら、間近で見る花火大会の音とあのズシンとくるボディソニックが、彼女にどう響くのかがどうして想像できなかったのだろう。それは、我々が感じる10倍も20倍もの強さで彼女の鼓膜と体を襲うのだ。……犬の環世界のことなんて、実はぜんぜんわかってなかった。ほんとうにごめんなさい、ノイ。心の傷になってないといいのだけれど。

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FE 55mm f1.8 + α7s