改めて、『心の分析』を勁草書房版で読み返してみる。


 世界は五分前に、正確にその時そうあった通りに、まったく実在しない過去を「想起する」全住民とともに、突然存在し始めたという仮説に、いかなる論理的不可能性もない。異なった時に起こる出来事の間には論理的に必然的な結合はない。故に、いま起こっている、あるいは、未来に起こるであろう、いかなることも、世界が五分前に始まったという仮説を反証することはできない。よって、過去の知識とよばれる出来事は、過去とは論理的に独立である。

B・ラッセル/竹尾治一郎訳『心の分析』(1993、勁草書房)、p.188