これは、土曜日がまだ土曜日らしいニュアンスを秘めていた頃の話である。日曜日が待ち遠しかった頃の話である。これは、スマホも携帯電話もまだなかった頃の話である。電話をかけても相手が不在ならば履歴が残らなかった頃の話である。そのために起こるさまざまなすれ違いにドラマトゥルギーがあった頃の話である。

 その話は、ご多分に漏れず、ひとりの男がひとりの女とすれ違うところから始まる。季節は五月、土曜日である。時刻は夕刻の六時である。日がずいぶんと長くなって六時になっても光に陰りはまだ見えない。夏がすぐそばまで近づいて来ているのがわかる。女たちはみんなもう夏服に着替えている。そしてみんな同じ、かすかな匂いを発散させている。みんな同じ香水を付けているのか、同じ柔軟剤を使っているのか。あるいは、どこかにクチナシの花でも咲いていて、みんなその下を通ってやって来るのか。

5月

Kinoplasmat 25mm f1.5 + E-PM1