改札を抜け3番線のプラットホウムに降り立ってみたものの、列車が到着するまでにはまだ10分ぐらいあるようだ。雪が降り続いている。50メートル先が見えない。改札の案内表示に「今の気温:ー10度」と出ていた。ホウムにこじんまりとつくられた待合室はすでに満員である。

 「次の3番線下り列車は3両編成で参ります。足もと1番から9番までの番号表示のところでお待ちください」とアナウンスが聞こえているが、積雪で番号表示を確認することはできない。おそらくは進行方向に向かって先端あたりに停車するのだろうと勝手に推測し、ダウンジャケットのフードを被り直しマフラーをぐるぐる巻きにして、待合室のあるエリアを通り過ぎていく。

 ふと雪の匂いがした。ツンとして、でもどこか懐かしいような。雪に覆われた地面の奥底の、甘い土の匂いがほんの少しだけ混ざっているような。

プラットホウム

 ホウムの先端に、女の人が立っていた。ひとりでずっとそこで、列車が到着するのを待っている。近づいていくと次第に彼女の姿のディテイルが見えてくる。背中まで伸びた長い髪。真っ赤な手袋をしている。紺色のダッフルコートを着ている。そして、ダッフルコートの脇に、おそらくはその中にヴァイオリンが隠されているだろうケースを抱えている。音楽教室の練習帰りだろうか。

 彼女の隣に並ぶ。こっそりと横顔をうかがう。真っ白な肌、寒さのせいで頬に赤みが差している。そして、大きく前を見据えた瞳。眉のところで切りそろえた前髪。

 イヤホンを耳に付けている。そこから少し音漏れがしている。クラシック音楽。たぶんシューベルト。弦楽四重奏。転調をめまぐるしく繰り返している。

 と、その時、突風が我々の顔をめがけて襲いかかってきた。彼女の長い髪がメドューサのように束になってグルグルと宙に舞う。頬の赤みと口紅の赤、そして手袋の赤がバラバラの断片になる。その背景で、雪片が青白くキラキラと光っている。