街を好きになる理由は「音」と「声」である。もちろん美しい景観や色彩が伴えばそれに越したことはないが、なによりも、音、音楽、そこに住む人々の話す声に惹かれて、その街のことが好きになる。

 昔も今もパリがずっと好きな理由もそのあたりにあるのだろう。パリジャンたちが話すフランス語のイントネーション。メトロの振動音、ホームでストリートミュージシャンが奏でる楽器の音色、そして教会の鐘の音。

 十年ほど前のクリスマスの夜、パリ在住の世界的な音楽家である三宅純さん一家に誘われて聞いたノートルダム寺院のミサは忘れられない。あのポリフォニックなコーラスの響きがフランキンセンス(乳香)の精油の煙とともに今もまざまざと脳裏に蘇る。当時十二歳だった愚息がパリに憧れたのも、たぶんあの一夜の経験があってのことだろうと思う。音や匂いの記憶はなかなか消えることは、ない。

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Summilux 35mm f1.4 2nd + M9-P