何度も何度も同じ夢を見る。

 昔借りていたアパアトの部屋が、契約解除されないまま何十年もずっと放置されているという夢である。数十年分の家賃が未納で、今になってその精算を余儀なくされるという夢である。

 夢の中で私は、自分にはもうひとつ帰るべき場所があったことを思い出す。しかし、そのアパアトがどのあたりに建っているのか、おおよその見当は付くのだけれど、実際にはなかなかたどり着くことができない。周囲が同じような路地ばかりで見分けが付かなかったり、建物が大きな木の陰に隠れてしまっていたり、部屋が半地下にあったり。だからいつも見過ごしてしまうのだ。

 夢の中で私は、今日はどちらの部屋に帰るべきなのか思案する。明日の朝の都合を考えると、今夜こそあちらの部屋に泊まった方がいいのではないか。そう思いながら、錆び付いた部屋の鍵をズボンのポケットの中で右手でぎゅっと握りしめる。

 夢の中で私は、その部屋のドアを開けた瞬間、目の前に現れる情景を想像する。床に机にベッドに、数十年分の埃が白く静かにつもっている情景を。そして、やがて、その部屋の片隅に、ある若い男の姿を見つけだす。やあ、とそいつは私に話しかけてくるだろう。どこか馴れ馴れしく。そのくせ拗ねたような目をして。