中高年の御多分に漏れず、ちょいとこだわりの文房具が好きである。万年筆は特に好きで、カランダッシュとかモンブランとかデルタとか、今まで人生の節目に買い集めたものがいろいろあって、さあて、今日はどれを持ち歩こうかと悩んでみたりするのが毎朝の楽しい習慣である。で、数年前にある知人から、モンブランは万年筆もいいけどボールペンも柄がドッシリしてて書き易いよ、よかったらこれ、あげる!と、なんと、頂いてしまったものがあって、以来それをありがたく日常使いをしてきたのだけれど、先日ついにインク切れをおこし、この度、銀座の大手文具店まで換え芯を買いに出かけることに相成った。

 売り場の方に相談すると「はい、モンブランの替え芯ですね、色は同じミステリーブラックでよろしいでしょうか」…奥のストックヤードから部品を持ってくるとその場で入れ替えをしてくれた。なんとも手慣れたものである。ところが、「あれ?」最後のところでうまくいかないようだ。新旧比較してみて「先端のネジのところの形状が微妙に違うみたいですね。おかしいですね…」「同じモンブランなのに形状にいくつかバリエーションがあったりするのでしょうか?こっちは古いタイプなのかな?」と私。担当してくれた人は売り場の他の方にも何人か聞いてくださったようだが、解決せず。「残念ながら私どもはこの形状のモンブランの替え芯は扱っておりません」とのこと。

 狐につままれたような気分で文具店を後にする。ブランドモノなのにその消耗品が形状違いで現在取り扱いがない、などということがあり得るのだろうか。頂いたものはよほど型が古いものだったのだろうか。…そのままモンブランの銀座本店に直行し、これこれこうで、と事情を説明する。「拝見いたします」…クールでハンサムなお兄さんは右ポケットから魔法のように新しい替え芯を取り出し、先ほどの文具店の方と同じように入れ替えを試みてくれたが、やはり先端のネジの形状が違うらしい。この時点で、クレバーな彼はもうピンと来たようで、今度は胸のポケットからルーペを取り出すと、芯も本体も子細に点検した後に「お客さま、大変申し上げにくいのですが、お客様のこちらのボールペンはモンブランの商品ではございません」「…」

 穴があったら入りたいというのはこうした状況を言うのであろう。なんと、このボールペンはニセモノだったのだ。こちらモンブランの本店では以前にもボエムの洗浄とか名入れとか、私もまあそこそこの顧客かも、などと思い込んでいたのに、ホンモノとニセモノの区別も付かなかったなんて。それにしても。このニセモノほんとうに良く出来ている。替え芯にもモンブランのロゴ表記、そしてメイド・イン・ジャーマニーとまでちゃんと刻印されているのだから。これをくれたあのひと、今頃舌を出しているかもしれぬ。まあ、彼一流のユーモアだったのかも。

montblanc?

 ホンモノとニセモノ、リアルとフェイク。そうした境なんて実際はあって無きが如し、などと日頃うそぶいていたりするものの、こうしたあまりにも実際的な模造品というのはさすがにねえ。…うーむ。銀座でとんだ赤っ恥をかきました。