「今日、世界は死んだ。もしかすると昨日かもしれない。」なんてフレーズで始められたら、これは見に行かずにはいられない。

杉本博司


 リニューアルオープンした東京都写真美術館で開催されている「杉本博司 ロスト・ヒューマン展」。ちなみに冒頭のフレーズは、カミュの異邦人に対するオマージュだ。「今日、ママンが死んだ」。

 世界の終焉を告げる33のシナリオ。それを見届ける33名の直筆の原稿用紙。例えば「コンテンポラリーアーティスト」のコーナーでは以下のようなシナリオが掲載され、そこにはウォーホールの例のキャンベルスープが羅列してある。

 「今日、世界は死んだ。もしかすると昨日かもしれない。後期資本主義時代に世界が入ると、アートは金融投機商品として、株や国債よりも高利回りとなり人気が沸騰した。若者達はみなアーティストになりたがり、作品の売れない大量のアーティスト難民が出現した。ある日、突然、アンディー・ウォーホルの相場が暴落した。キャンベルスープ缶の絵は本物のスープ缶より安くなってしまった、そして世界金融恐慌が始まった。瞬く間に世界金融市場は崩壊し、世界は滅んでしまった。アートが世界滅亡の引き金を引いた事に誇りを持って私は死ぬ。世界はアートによって始まったのだから、アートが終わらせるのが筋だろう。」

 会場は三つのパートに分かれている。圧巻はやはり「廃墟劇場」シリーズの写真。廃墟となったアメリカ各地の劇場で、スクリーンを張り直してそこに映画を投影し、大判カメラで上映一本分の光量のみで長時間露光して撮影した作品群。これは写真好きにはたまらない。デジタルカメラでは絶対に為し得ない作品だ。

 杉本博司さんの作品は直島等でもいくつも見ているが、その「企み」にはいつも恐れ入る。まさに現代のマルセル・デュシャンなのだろう。