荒川修作の養老天命反転地を再訪した。10年ぶりぐらい。
 
 平日である。とても寒い。案の上、誰も居ない。「足元にくれぐれもお気を付けください」と受付で言われる。「靴とヘルメットお貸ししましょうか?」「いえ、大丈夫です…」

反転地1

 ここは現代のマニエリスム庭園。ローマ郊外のボマルッツオやフィレンツエのボーボリ公園のグロッタに通じるものがある。すべてが歪み、次元が入れ替わり、交差する。
 ここは荒川修作のかの有名な文句「死なないため」の場所である。コーデノロジスト荒川修作の渾身作である。コーデノロジスト。すべての芸術を建築的に集約しようとする人のこと。

 考えてもみろ。あのレオナルド(ダ・ヴィンチ)がどんなに素晴らしい絵を描いたって、指一本入れられないだろ。だからフィクションだな。そうすると信じるか信じないかという信仰の問題になる。

 確かに我々は絵画や彫刻と直接交わることができない。それに対して、立体的な建築物には体ごと入り込むことが出来る。そして、その中でさまざまな事象をリアルな身体感覚として体験し夢想し直すコトが出来る。

 インテリアとエクステリアが一体となった家、閉じ込められた迷路の先に滲む光。

反転地2

反転地3

 荒川修作は若い頃、ニューヨークであのマルセル・デュシャンに出逢った。「自分は死なない」ことを宣言したのはデュシャンが先である。究極の反転とは「自分」と「他人」を反転させることなのかもしれぬ。デュシャンの墓に刻まれた有名な文言。「されど、死ぬのはいつも他人なり」

 D’ailleurs,c’est toujours les autres qui meurent.

all photos taken by GRⅡ