2023年10月
Night Song
古めかしいビルの最上階にその店はある。入口を入ってすぐのところに大きなスピーカーが置かれている。これだけ見るといかにも昔のジャズ喫茶風なのだが、店主はどうやら、大仰なビックバンドや汗が飛び散るような熱の籠もったサックスが好きではないらしく、いつ来ても、囁くようなピアノソロかインプロヴァイズドなアカペラのヴォイスが流れている。
その日かかっていたのは Sidsel Endrosenの「NightSong」。
年を取ると毎晩の睡眠時間のことばかり気にかかる。夜中に目が覚めても、すぐにまた眠りに付こうと躍起になる。若い頃のように、柔らかい人工的な明かりに照らされる夜を楽しむことを忘れてしまう。「NightSong」を今一度。壁にはマーク・ロスコの複製画が架かっている。