同じ夢を何度も見る。
封書が届く。その封書には「部屋の家賃が滞納されています」と書かれている。途方もない金額。僕がかつて住んでいたアパアトは、三十年もの間、解約されないままになっている。取り壊されることもなく、今も大きな櫻の木の陰に隠れてひっそりと建っている。三十年分の白い埃を床や簡素な書き物机の上に堆積させて。
Hektor 5cm f2.5 + M10-P + Color Efex Pro
寒い。手足の先が冷え切っている。三十年間封印されたあの部屋の扉を開ける前に、少しばかり暖を取っておこうと僕は考える。オレンジ色の明かりに誘われて、遊歩道沿いに建っているカフェのドアを開ける。カウベルの音が鳴り、その後、店の奥からなにやら物語めいた旋律のピアノの音色が聞こえてくる。窓際の席に案内される。熱いミルクティーを注文する。窓越しにあの櫻の木が見えている。その陰に建つアパアトのシルエットが闇の中で微かに滲んでいる。
明日から僕はまたこの街で目覚め、昼間のうちは少しだけ外に出て陽に当たり、夜が更けてからはあの部屋に閉じ籠もり、またあの頃と同じように奇妙で孤独な夜を過ごすのだ。