naotoiwa's essays and photos

2023年01月



 早いもので、義父が亡くなってはや半年以上が経過した。遺影に手を合わせながら、この写真を選んだ去年の初夏のことを思い出す。柔らかな表情の写真がなかなかなくて、唯一見つけたのがこの一枚だった。実の父親や母親の時もそうだったが、いちおう写真はセミプロのつもりなので、遺影をどれにするのかどのように加工するのかを葬儀屋さん任せにすることはない。すべて自分でトリミングし若干の修正を入れ、そして、背景を抜く。それを普段通り他の写真と同じように淡々とやろうとするのだが、遺影の場合は簡単にはいかない。その理由が今ひとつ分からないでいたが、先日、平野啓一郎さんの『空白を満たしなさい』を読み直していて、なるほどと思った。遺影から背景を取り除く行為はやはりちょっと特別なのだ。

「遺影も背景を消しちゃうからね。だから、亡くなってすぐに見つめることが出来るのかな。もうこの世にいない人って、わかるから。……背景が無いから、誰にとっても自分との分人に見えるのかな?……」
平野啓一郎『空白を満たしなさい』(下)(講談社文庫)p.212


 写真館で撮影する場合は別として、通常、写真というのは誰かとその特有のシチュエーションのもとで撮られるもの。それを、すべての遺族にとってニュートラルなものへと抽象化させるために加工するのだから、難しいのも当然かもしれない。

 改めて、合掌。

遺影


神田明神

CZ Sonnar 5cm f1.5 (c mount, black / nickel&chrome, pre war) + M10-P


 遅ればせながら初詣。@神田明神




 ついに上映も最終日となったので、やっぱり、映画「月の満ち欠け」、見に行くことにした。

 原作は大好きな佐藤正午さん。直木賞を受賞されたときは自分ゴトのように喜んだ覚えがある。

 こうした文学作品の映画化はやや期待外れになることも多いが、廣木隆一監督は原作のかなり交錯した話をうまくシンプルに収束させてストレートに「泣かせる」映画に仕上げている。おかげさまで、けっこう泣かせていただきました(汗)。
 ま、あのジョン・レノンの名曲「WOMAN」を使われた日にゃ仕方がない。でも、かの「However distance don't keep us apart. After all it is written in the stars」の歌詞は、この生まれ変わりのストーリーにすんなりとマッチしていると思う。




 早稲田松竹で映画を見た80年代の日々がとても懐かしゅうございました。




1989年。アルバム「天晴」。
高橋幸宏さんと桐島かれんさん、カッコ良すぎ。

backlight

Nikkor-SC 5cm f1.4 (L mount, No.5005****) + M10-P


 逆光の中で。@cat street




 昔から坂のある町が好きだったが、若い頃は、そのベクトルは常にプラス方向。上へと坂を登っていくイメージである。昔書いた文章の断片に「ひとは高台に立って思惟を高め、孤独に耐えられなくなると坂道を下る。現実の狭視にやり切れなくなると再び坂道を登る」などとある。でも、年を取ってからは逆のようである。ベクトルはマイナス方向。下へと坂を降りていくことに強く惹かれる。先日訪れた新宿荒木町などはまさにそうした場所で、町全体がすり鉢状の窪地になっており(その中心が津の守弁財天の策の池)、陽が落ちると、人々はかつて花街があったエリアへと坂を下っていく。
坂道


 平野啓一郎さんの『ある男』(現在、映画も上映中)にも荒木町が登場する。弁護士の城戸が後藤美涼に初めて会ったのがこの町のバーである。

 スタッズのついた黒いキャップを被っていて、耳にかけた明るめの髪が、華奢な肩に垂れている。中高(なかだか)のすっきりした顔で、グレーのカラーコンタクトの入った眸が、唇と共に艶々していた。美人だな、と城戸は正直に思った。
平野啓一郎『ある男』(文春文庫、2021年)p.63

 今なら、自分だけの隠れ場を持つなら、断然、坂を下った処がいい。ちなみに、私もこの「中高(なかだか)のすっきりした顔」にとても弱いことはさておき。。
fox


all photos taken by CZ Sonnar 5cm f1.5 (c mount, black/nichkel&chrome, pre war) + M10-P




荒木町

CZ Sonnar 5cm f1.5 (c mount, black/nickel&chrome, pre war) + M10-P


 仕事で四谷近くまで来たので、久しぶりに荒木町探訪。




 

moon

Nikkor-S.C 5cm f1.4 + M10-P


 50年代のニコンのSマウントレンズ、標準のf1.4。
 ゾナータイプのシングルコートは戦前のイチゴゾナー並に滲む。



令和5年


 ようやく後厄も、過ぎたのでしょうか?


お正月

Sonnar 8.5cm f2 (c mount, pre war) + M10-P


 令和5年。元旦。


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