naotoiwa's essays and photos

2022年11月



 かれこれオールドレンズ&カメラ歴もずいぶんと長いので、ほとんどのレンズに関してはその種類や特性についてそこそこ詳しいと思っていたが、先日、久しぶりに中判のローライフレックスに120フィルムを入れて撮影した後、書籍等でレンズ構成を改めて確認していて思いがけない発見をした。
 十数年前、ご多分に漏れず私もローライのレンズはプラナーかあるいはクセノタールかでさんざん迷い、けっきょく両方買ったクチであるが、その違いはハッキリ言って未だよく分からない。プラナーの方がやや全体的に柔らかいかな? クセノタールの方がやや線が細くて精緻な感じかな? ぐらいのものである。
 それよりも同じ中判用プラナー80mmF2.8なのに、ハッセル用のプラナーとローライのプラナーの違いの方が顕著に感じられる。ハッセル用のプラナーは後ボケも綺麗で柔らかくまさにポートレート向きであるが、ローライの方は中央の解像度は高いが周辺の収差が割と大きくてその分絵画的で面白い。いずれにしてもこの両者、同じ名前で同じ焦点距離同じ最小絞りのレンズには感じられないのである。
 で、よくよくレンズ構成を調べてみたら、ローライのプラナーは定番のダブルガウス型とは言い難い。後群がトボゴン型なのである。(*ちなみにこれは80ミリに限ってのことで75ミリの方は通常のダブルガウス型)前群がダブルガウス型で後群がトボゴン型、つまりはこれ、クセノタール型なのである。要するにローライ用80 ミリのプラナーとクセノタールは、ほぼ同じレンズ構成だったのである。これではプラナーとクセノタールで写りにあまり違いが感じられなくて当然であろう。

 さて。半分がトボゴン型と知って腑に落ちた。ローライの80ミリの写りが好きな理由。どこかちょっと危ういのだ。破綻する予感が片隅に漂っている。そんな全体の雰囲気の中で、フォーカスしたい対象物だけが浮きあがるように写る。

planar

Planar 80mm f2.8 of Rolleiflex 2.8E2 + Delta400

 教訓。いずれにしてもレンズ名はあまり鵜呑みにするべきではないということだろう。名前はプラナーでもその実はクセノタール型だったということだ。戦前のビオゴン35ミリも名前はビオゴンだがその実はゾナー型である。オールドレンズはまだまだ奥が深い。

susuki

W- Nikkor 35mm f2.5 (S mount) + M10-P


 薄。




 晩秋の、冷たい雨の降る日に善福寺公園に行けば、ロンドンのケンジントンガーデンを散策しているような気分になれる。池沿いに建つ洋館、雨に濡れた落ち葉、水辺のベンチ。

zenpukuji


 アートフェスティバル「トロールの森」もやっている。

trolls


 もうまもなく、冬。アタマもカラダも凜となる、大好きな季節。

all photos taken by XF 35mm f1.4 + X-T 30Ⅱ




 あと一ヶ月もすると冬至。5時を過ぎればすぐに夜がやってくる。車のヘッドライトを点け、ハンドルを右に切ると、ここはどこだろう? 初めて通る道、見知らぬ道だ。路肩に車を停めフロントガラス越しに木々の、建物のシルエットを眺めていたら、久しぶりにあの「哀しみ」がやって来た。闇が夜が、つくづく心細いのである。小さかった頃みたいに。一度閉じ込められたら、この闇はもう永遠に明けないのではないだろうか。誰かに傍にいてほしいのに守ってほしいのに、誰もいない。もしもこのまま明けない夜をずっと走り続けなくてはならないとしたら。闇の中に置き去りにされる情景がまぶたの裏に映し出される。迷子になった情景がまぶたの裏に映し出される。シンシンと冷え込んだ世界がヒタヒタと私の中に浸透してくる。

森

@ Trolls in the park

Summaron 35mm f2.8 L + Ⅲg + APX400

滲み

Kistar 40mm f2.4 + M10-P


 Kistarを試してみた。ズミルックス35ミリを凌ぐ収差だ。




 書庫の整理をしていたら35年前に買った文庫本が出てきた。森瑤子さんの「渚のホテルにて」。買ったときの領収書がそのまま挟んであった。栞がわりに使っていたらしい。購入したのは代官山文鳥堂書店。今はない。日付は昭和62年5月6日。

森瑤子

Nikkor-P 10.5cm f2.5 ( S mount) + α7s


 26歳のゴールデンウィークに、僕はこの文庫本を読みながらいったいどんなことを考えていたのだろうか。「渚のホテル」のイメージを追い求めて、取り壊しになる直前の逗子のなぎさホテルまで車を飛ばそうとでも思っていただろうか? 森瑤子さんの官能的でアンニュイな文章に耽溺していたあの頃。

 35年ぶりに読み返してみると、第三章の「ウィークエンド」などは特に、複数の登場人物のセリフとそのト書きが過去と現在で交差し合って、シアターの桟敷席から上質な演劇を見ているような、そんな空気感に溢れた筆致である。改めて脱帽。

black cat

Planner 80mm f2.8 of Rolleiflex 2.8E2 + Delta 400


 黒猫


日影

Nikkor-S 50mm f1.4 (Olympic) + M10-P


 日影。


pray

Sonnar 5cm f1.5 ( c mount black/nickel/chrome, pre war ) + α7s


 pray.





shadow picture

Nikkor-S 50mm f1.4 + S3 + Fuji X-Tra400

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