2022年05月
3 persons
jasmine
父には勝てない
今日は亡父の誕生日である。早いもので亡くなってからもう二十五年、四半世紀が経ってしまった。あと十年もすれば今度は自分が父の亡くなった年齢になるが、このトシになっても父には追いつけないことばかりである。ゴルフは言うに及ばずスキーの腕前も上がらない。クルマも父のようにメリハリがあってしかも柔らかな運転の域には到達しない。何をやっても父には勝てないなあと思いつつ、写真ぐらいはと、70年代に父が使っていたカメラとレンズで多重露出なんぞにトライしてみる。
Summicron 40mm f2 + CL + APX400
父は最後までフリーランスの自由人だったが、後に遺族が困るような問題はなにひとつ残さなかった。コロナ禍でここ数年行けていない古里のお墓参り、今年の夏こそはと思う。
佇む
空と海を
Bluff
「このマンション、年をとってから大変になるって思わなかった?」と彼女は言う。
その建物はブラフと呼ばれる崖の石段を約百五十段登り切った場所にある。眺望はバツグン。部屋の三方の窓からはいつでも海と空が見える。周辺は人通りも少なくてとても静かだ。
Summilux 35mm f1.4 2nd + M4 + XP2 400
「買い物はどうしてる?」「ネットで注文すれば何でも届けてくれる」「ずっと部屋に籠もりっぱなし?」「天気が悪い日はそうだね」「退屈?」「まだまだ読みたい本がたくさんあるから、いくら時間があっても足りない」「そう」「で、今日みたいに奇跡みたいに天気が良くなった日曜日にだけ、坂を下りていって街でパンを買ったりカフェで珈琲を飲んだり」「奇跡みたいって?」「初夏なのに風がヒンヤリとして空気が乾燥してる。今年こそはジメジメした梅雨も猛暑の夏も全部スキップしてくれるんじゃないか……そんな奇跡が起きそうな気がする日」「相変わらずのアナタの言い回し」「そうかな」「で、相変わらずひとり?」「ああ、でも、この部屋にいると毎日いろんな人たちに会えるんだ。キミみたいな昔の友だちにも、昨日会ったばかりの新しい友だちにも。みんな同じように若くて生き生きとして、この部屋でいろんなことを語り合う。日が暮れるとみんな帰って行くけれど、そのあとひとりになって考える。ひとりになって書く。とてもおだやかな毎日だ」「アナタ自身も昔のママ?」「鏡を見てないからよく分からないけど、キミが言うように言い回しも変わらないみたいだし、毎日考えることも毎晩見る夢も変わらない。ただちょっと足腰が弱くなって階段の登り降りがキツくなってきただけのこと」
M4 + Summilux
高速シャッターでムラが出てきたのでM4をオーバーホールに出した。6年ぶり。もともとはウィーン郊外の中古カメラ店で購入したこのM4、もう使い始めて二十年ぐらいになるだろうか。35ミリレンズで撮るには最適なファインダー倍率、露出計が付いてないから後玉が飛び出ているエルマリートの9枚玉やスーパーアンギュロンもストレスなく付けられる。バルナックやM3に比べればフィルム装填もやはり簡単で便利だ。
高速の1/1000シャッターが復活したところで、ズミルックス35ミリを最小絞りにして撮影する。この柔らかさと滲みと光の捉え方は、やはりフィルムならでは、そしてズミルックスならではだと思う。
Summilux 35mm f1.4 2nd + M4 + XP2 400