2021年09月
広角レンズ
年齢を重ねるにつれ、世界を見る画角が狭くなっていく。写真家の高梨豊さんはレンズの焦点距離と年齢の関係について興味深い説を唱えていたらしい。60歳のひとには焦点距離60ミリあたりのレンズあたりが相応しいとのこと。でも、そう言われると天邪鬼な私は俄然反対のことがしたくなる。最近よく使うレンズは、広角・超広角ばかり。エルマリート28ミリ、ビオゴン21ミリ、スーパーアンギュロン21ミリ、ルサール20ミリ。年齢換算すれば20歳から28歳向けのレンズということになろうか。
望遠で切り取れば余計な物は写らない。さすれば精神も安堵するというものだ。でも、予期せぬものがノイズとしてどこかに写り込んでいるかもしれないからこそ世界は面白いのではないか。きちんと結像して見えるのは中央の部分だけかもしれない。周辺部は滲み、ぼやけ、歪み、流れているかもしれない。
それでも、ひとはパースペクティブに世界を見つめ続けないとダメだと思う。そう自分に言い聞かせつつ、今日も、シャッター幕にレンズガードが抵触しないかとオドオドしながら、後玉が突き出た対称系のレンズをカメラのマウントに取り付けてみたりする。ま、後玉フリークなだけという説もあるがw
Super Angulon-R 21mm f3.4 + α7s + Color Efex Pro
「街が片影になりましたら」
今日の関東地方は真夏に戻ったように30度を超える快晴となった。でも、空気は乾燥して日に日に秋らしさが増している。おととい(21日)の中秋の名月も目が醒めるような美しさだった。
Russar 20mm f5.6 + MM
こんな、一瞬、夏に戻ったような、でももう秋の清澄さが十二分に感じられる日に思い出す文章がある。竹久夢二が日本橋に港屋絵草紙店を開店した際の挨拶状である。先日脱稿したばかりの夢二に関する論文にも引用したが、季語「片影」の使い方が素敵である。店主である妻、他万喜の名前で書かれているが、文案は竹久夢二もしくはふたりの共同執筆であったろう。
下街の歩道にも秋がまゐりました。港屋は、いきな木版繪や、かあいゝ木版画や、カードや、繪本や、詩集や、その他、日本の娘さんたちに向きさうな繪日傘や、人形や、千代紙や、半襟なぞを商ふ店で厶(ござ)います。女の手ひとつでする仕事ゆえ不行届がちながら、街が片影になりましたらお散歩かたがたお遊びにいらして下さいまし。
「増訂版 金沢湯涌夢二館収蔵品総合図録 竹久夢二」(金沢湯涌夢二館、2013年、2021年改訂)p.156参照