naotoiwa's essays and photos

2020年03月



 59歳になりました。あと一年で還暦。60歳とは!
 
 昔々、自分が40歳になるなんて、とても信じることができませんでした。1999年に世界は滅亡する。(ノストラダムスの大予言ですね)ゆえに39歳で死す。ところが、あっさり2000年はやってきて、私は40歳になりました。

 そこからが早かったです。あれよあれよといううちに10年が過ぎ、50歳になりました。この年、東日本大震災が起きました。そしてまた9年。今年は新型コロナウイルスの感染拡大で世界中が混乱しています。

 人生は長いようで短く、短いようで長い。この中途半端な時間がせつなくて、だからこそ愛しいのでしょう。

 そんなことをぼんやりと考えている、今は、少しばかり花冷えのする3月23日の夕刻です。

 最後に、この新型コロナウイルスの感染拡大が一日も早く終息することを祈ります。

sakura2020

Summilux 50mm f1.4 1st + M9-P + Silver Efex Pro

pierrot

Summilux 50mm f1.4 1st + M9-P




 オレンジ色の明かりがシャーベットみたいに淡くなる夕刻がある。そんな時は、街の音、通りをすれ違う人々の声のざわめき、匂いの流れ方、香りの留まり方までもがなんとも柔らかい。おそらく空気の密度が普段とは違ってしまうのだろう。

 それは、春の兆しが見えてきた時節にも起こりうるし、夏の終わり、澄んだ秋の空の下、あるいは真冬の、とある一日にも起こりうる。季節はまちまちだ。ただ共通しているのは、風がふうっと止む時間帯、その後に始まる夜空が群青色になる直前の時間帯だ。

 そんな夕刻に、私は整然と区画整理された住宅街を歩いている。ツタの絡まる古めかしいヴィンテージもののマンションが左手に見えてくる。右手には簡易な十字架を屋根の上にかざした教会、その隣の更地には、大きな樫の木が一本そびえている。しばらくすると、いろんな店が軒を並べる賑やかな通りに出る。古着店、雑貨屋、小さな食堂、自家焙煎の珈琲店、エトセトラ。そして、その通りの突き当たりに、しめやかな公園の入口が待っていて、そこに自転車が二台、置き去りにされている。

bicycles

Summar 50mm f2 L + Ⅲa + Acros100 + Silver Efex Pro

鴉

Summar 50mm f2 L + Ⅲa + Acros100 + Silver Efex Pro


 hand.


neu

Xenotar 80mm f2.8 of Rolleiflex 2.8E + Acros 100


 久しぶりにクセノタールのローライ2.8E。やっぱりプラナーより好きかも。


冬景色

GR 18.3mm f2.8 of GR Ⅲ + Color Efex Pro


 久しぶりの雪景色。

 
したいことをしてきたと 人は思っているけど
 心の翳は誰にも わかるものじゃないから

 「さみしさのゆくえ」



 今年の雪不足は深刻だ。先日新潟に行った時も、地元のお年寄りの人たち曰く、山間部で例年の三分の一、町中では十分の一。雪かきをする必要がなかった年は自分の長い人生の中でも他にほとんど記憶がない、とのこと。

 長野もしかり。志賀高原の山の駅を過ぎて、志賀第一トンネルにさしかかる時、頭上をジャイアントスキー場のペアリフトが横切っていく。例年ならこのあたりからは本格的な雪景色のはずなのだが、今年はここまで来ても路面はドライなグレー色。

 今年だけの例外ならばいいのだけれど、地球温暖化がものすごい勢いで進んでいる気がする。このまま、この国から雪景色が消えてしまったら、と考えたところで気が滅入ってしまった。亜熱帯気候の日本、台風ばかりの日本。冬がなくなってしまった日本。

 夢の中で、僕は、昔ながらの古風なホテルの一室で、スチーム暖房のシューシューという音を聞きながら、窓の向こうの月明かりに青白く光るゲレンデを眺めている。夢の中で、僕は、凜とした空気の中、「さくさくさく。」と新雪を踏みしめている。

雪景色

GR 18.3mm f2.8 of GRⅢ + Color Efex Pro



 先週末より、大型イヴェント・公演が相次いで中止になり、学校は休校、企業も自宅勤務。テーマパークも休園である。まあ、これだけITが進化した現代だから、仕事のほとんどはテレワークでも可能だろう。教育もしかり。4月以降もこの状況が改善されなければ、大学の授業も真剣にオンラインを検討しなくてはならない。

 さて、この週末、上野の美術館・博物館も休館となった。実際に行けないのならば致し方なし。せめてヴァーチャルで常設展示でも、ということで google art & culture。……まあ、よく出来ている。美術館まるごとストリートビュー。気に入った絵画は拡大してけっこうディテールまで鑑賞できる。外出自粛でずっと家にいるのであれば、こちらで世界の美術館巡りをするのも悪くない。例えば、大好きなパルミジャニーノの「首の長いマドンナ」をストリートビューで鑑賞することだって出来るのだ。

 いい時代になったものだ。あのウフィッツィに、整理券も取らず並ばずに入場できて、他の観客に気兼ねせずに名だたる名画を鑑賞できるのだから。でも、……ひとっこひとりいないフィレンツェのウフィッツィ美術館? なんだかゾッとしてしまった。

 これからはますますリアルとヴァーチャルの境がなくなっていく、とはよく言われることだけれど、ほんとうにそうだろうか? 私には逆に、リアルとヴァーチャルの境がシームレスになればなるほど、ほんとうのリアルがよりいっそうかけがえなく、愛おしく思えてくる。マニエリスムの名画を見たければ、まずはフィレンツェの街で花の大聖堂のあの鐘の音を聞くべきなのだ。そして、ウフィッツィのヴァザーリの回廊のことを知り、ポントルモやブロンズィーノのあの「青」の色の妖艶さを実際に見ることだ。でないと、マニエリスム絵画の「アウラ」を感じることなんてできないと思うのだけれど。

 もう間もなくすれば、そうしたアウラさえ体感できるようなVR/AR技術が開発されるのかもしれない。そして、人々はシェルタリングされた自分の部屋から出ることが出来なくなって(ウィルスや放射能等で汚染されて出るに出られず)、この世界は、まるで昔からある定番の未来小説みたいに変貌していってしまうのだろうか、と考えたところでますます気が滅入ってしまった。

 ああ、フィレンツェ行きたいっ。でも、イタリアもコロナ感染、大変なんですよね。トホホ。

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