小春日和な午後である。おまけに室内はたっぷりと暖房が効いている。眠くなる。このままこのソファで、猫のように丸まって眠ってしまおうか。
室内の壁はグレイにくすんでいる。そこに、素描のカモメが三羽、飛んでいる。小さなスピーカーから、かすかな音でピアノが鳴っている。そして、花とベリーの匂いがする。大きな窓からは、通りを歩いてゆく何人かの横顔が伺える。奥にある小さな窓はハメ殺しの窓だ。
Elmar 3.5cm f3.5 + M8
君はこの場所で、ずいぶん昔のことを想い出そうとしている。30年、いや35年も前の話。……でも、これはもう、どうやったって手遅れなんじゃないかと君は思い直す。みんな朽ち果ててしまったのだから。内も外も。
暖房機の音がぼんやりと鳴っている。今なら、あの頃みたいにいつまでも眠り続けることができるんじゃないかと君は思う。花瓶に挿してあるドライフラワーもグレイにくすんでいる。スマホはどこかに忘れてきてしまった。君のタイムラインには当分の間なにもやって来はしない。