naotoiwa's essays and photos

2018年02月

ume

Lumix G Macro 30mm f2.8 + GM1


 梅の香せり。




 ま、今の世の中、大概のことは検索すれば情報が出てくる。

 例えば、この昔のオリンパスペン用のズイコーレンズ。リアキャップがなかなか見つからない。見つかっても数千円の値段がついていたりして、それならこの100ミリのレンズがもう一本買えてしまう。で、検索してみると、こんな情報がヒットする。明治乳業の瓶のプラスチックの蓋がドンピシャのサイズですよ、と。

珈琲牛乳

G-Zuiko Auto-S 40mm f1.4 + E-P5


 で、さっそく、近所の老舗の食品店に行ってみると、ありました。明治のコーヒー牛乳。銭湯の湯上がりに飲みたくなるヤツです。一本100円。ゴクゴクと飲み干してキャップの蓋を洗ってレンズのリアに填めてみると、はい、確かにドンピシャリ。

 100円で懐かしのコーヒー牛乳が飲めて、これで古いペン用のレンズも後玉を傷つけることなく保管することが出来るようになりました、というお話。



 ハケというのは国分寺崖線だけの固有の名称かと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。関東では一般的に、台地の崖にあたる部分をハケと呼ぶ習慣があるようだ。

 民藝運動の柳宗悦が、志賀直哉、武者小路実篤らと芸術家村をつくっていた我孫子においても、手賀沼に面した台地の崖をハケ、その崖下の道をハケの道と呼んでいた。

 三樹荘(柳が妻兼子と暮らした家)は天神坂を登ったところに建っている。当時は敷地内から手賀沼越しに富士山が見えたらしい。そして、敷地内にはかのバーナード・リーチの窯があった。ここから志賀直哉邸、あるいは村川堅固の別荘あたりまで、ずっとハケの道が続いている。

 そんな場所で、バーナード・リーチは日本の陶芸を究めようとしていたのだ。東洋と西洋の架け橋にならん。手賀沼に彼の碑が建っている。刻まれた文字は『Beyond East and West』からの一節である。素敵な言葉である。香り立つ言葉である。

 I have seen a vision of the marriage of East and West.

vision

G-Zuiko Auto-W 20mm f3.5 + E-PM1



沼辺

G-Zuiko Auto-W 20mm f3.5 + E-PM1


 沼辺。


bicycle

Kinoplasmat 2.5cm f1.5 + E-PM1


 bicycle in the snow.




 一年間ゼミを担当させていただいた4年生のみなさん。昨年、期限ギリギリまで卒論の提出がなかった時にはかなりハラハラドキドキさせられたけれど、最終的には各自個性的な卒論や卒制を仕上げてくれた。尊敬するS名誉教授の教え子たちを引き継いだ形の一年間だったので、これでひと安心。ホッ。

 で、みなさんの卒論を読んでいると、30余年前に自分が卒論を書いていた時のことをついつい思い出してしまった。当時私が書いたのは「マニエリスム芸術論」。

 大学三年生の時、一橋大学の河村錠一郎先生のゼミに入って世界観が変わった。毎回16世紀のマニエリスム美術と19世紀のイギリスの世紀末美術を行ったり来たり。美術だけではない。今日はイギリスのジャコビアンドラマ、例えばジョン・ダンの詩、次回は19世紀末のオスカー・ワイルドのドリアン・グレイ。刺激的な教材ばかりだった。先生の研究室はいつもバラの香りがして、まさに19世紀末のロンドンにいる気分になったものだ。

 さて、「マニエリスム芸術論」なんて大それたタイトルでいったい何を書いたのかというと、フィレンツェのヴェッキオ宮にあるフランチェスコ1世の「ストゥディオーロ(書斎)」について書いたのである。ここには錬金術をテーマにしたマニエリスム絵画のコレクションがある。当時は非公開の秘密の部屋だったが、今ではなんと見学ツアーも催されているらしい。時代は変わったものだ。

 フランチェスコ1世。フィレンツェを繁栄に導いたコジモ一1世の後継者だが、息子の方は内省的で政治には不向き。私はなにやらこの手の二世に弱いみたいでw 大好きなのはこのフランチェスコ1世以外にも、かのノイシュヴァンシュタイン城を造ったルードヴィッヒ2世、あるいは、フランツ・ヨーゼフ1世の子でマイヤーリンクで少女と心中事件を起こしたオーストリアのルドルフ皇太子などなど。いずれも憂鬱質でディレッタントなマニエリストたちである。

 あの論文を書いてからずっと、フィレンツェは憧れの都市であり続けている。今もずっと。ピッティ宮の彼方に広がるボーボリ庭園では天国のランドスケープを堪能できるが、そこには数々のグロッタ(マニエリスムの洞窟)が潜んでいたりもする。首が長くて体をS字型(セルペンティナータ)にひねったマニエリスムのマドンナたちの宝庫、フィレンツェ。たぶん、世界でいちばん好きな街である。

grotta


mask

Triotar 75mm f3.5 of Rolleicode Ⅱ + Tmax400


 仮面。


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