2017年12月
saint girl
冬の旅
日本ほど四季の豊かな国はないとはよく言われることであるが、(桜の咲き乱れる春、鮮やかな紅葉の秋、その美しさは格別である)でも、日本よりもヨーロッパの街の方がずっと季節の移り変わりのコントラストを強く感じる。緯度が高い位置にあれば、その分だけ太陽の出ている時間の長さが夏と冬とでは圧倒的に違ってくるからである。六月や七月は六時前に日が昇り、夜の十時近くまで宵を楽しめる。それが真冬ともなれば日の出は九時、日没は五時である。
夏は、このままずっと日は沈まないのではないかと思えるほど、美しく青くピンク色に染まった空のもと屋外で遅くまで夕食を楽しむことができる。サマータイムを導入することでさらに一時間分活動時間も増える。
それに引き換え、極端に日の短くなる冬。朝の八時をとうに過ぎているというのにまだ外は真っ暗闇の中、メトロの駅まで歩いて行くときのこの寂寞感。しかも石畳の道は凍えるほどに冷え切っている。中世の暗黒を容易に想像できる冬の街である。
でも、この夏と冬の対比があるからこそドラマツルギーは生まれるのではないだろうか。夏は開放的に人生を楽しみ、冬はひとり部屋の中で思索にいそしむ。物語を紡ぎ出すには、やはりこの夏と冬、昼と夜のコントラストが大切なのだと思う。
Summilux 35mm f1.4 2nd + M9-P
ようやく夜が明け始めた。今は朝の九時である。
women are right
chimney
merry Christmas
contrail
コンピュテーショナル シンキング
最近いろんな方とお話ししていると、会話の端々に、コンピュテーショナルシンキング、あるいはコンピュテーショナルデザインといった言葉をよく耳にする。コンピューター的思考、コンピューター的デザイン。
たぶん、こうした概念を私が最初に意識したのは、今から遡ること40年ほど前、高校三年生の時ではなかったか。現代国語の授業で、当時理系クラスでトップの彼が、芥川だったか漱石だったかは忘れたが、文豪たちの書く文章も前後の脈絡を解体してパーツごと組み替えてみると面白い、的な発言をしたことがあって、それを聞いて、普段は物静かで(というか授業中は下を向いて好きな本ばかり読んでいた)私が、このときばかりはその彼の発言に猛然と抗議した記憶がある。なんて言ったか記憶が定かではないが、たぶん、当時の私の心の中の言葉を思い起こせば、「ボ、ボクの大切な、ブ、ブンガクを、数式のように扱うんじゃない!」とかなんとか、あまりにも青臭い文学青年風の心の叫びだった気がする。
そんな私も、その後数十年を経過して人間のコミュニケーション能力についていろいろ考えるようになり、特に「クリエイティビティ」なんてことを意識して二十数年を過ごしてみると、今では、あの時の彼の発言の重要性がとてもよくわかるのである。エリートの彼は17歳にしてさすがだったのだなあと今更ながらに感服するのである。
既存の考え方や常識にとらわれないで自由に発想してみる、というのは、言うは易しだがこれほど難しいことはない。もちろん、そうしたことができるようになる訓練やコツみたいなものはあるし、そのことを本にも書いてみたつもりだが、でも、文脈のハズシ方、ズラシ方にもその人独自の「意味性」が加わる。それは素晴らしいことだし、その人ならではのクオリアの反映であるし、それこそが人間の個性なんだけれど、逆に言えば、私たちは「自分の自分によるコントロール」から自由になることはなかなかできないのである。
それを、意図的に、時にはコンピューターがやるように解体再構築してみる、というのがコンピュテーショナルシンキングということ。徹底的に機械的にシャッフリングした後で無機質にカップリングするのである。すると、超予想外の組み合わせに自分のクオリアが従来にはない感覚で反応することがある。演繹的思考はその後で。まずは徹底的に帰納法にこだわり続けること。
とりあえず気の利いたまとめかたをササっとしてしまうこと。……それこそが、思考する上ではいちばん怠惰なことなのかもしれない。今更ながらではあるが、17歳のあの頃にもどって彼に教えを請いたい気分である。
おとなのための
3年前に企業の職を辞した時、よーし、小説でも書くかと思い立ち、今年から大学で教鞭をとることになった時、よーし、学術本を書くぞと武者震い。でも、いまのところ、どちらも実現しておりません。すみません。
で、いろいろあって、2017年も押し詰まった今、こんな本が完成しました。印刷見本が上がってまいりました。
世の中にクリエイティブ発想本は数多くありますが、そのほとんどは表現や伝え方のクリエイティブについて語ったものではないでしょうか。そうではなく、表現に至る手前の(あるいはその先の)モノの存在価値そのものを見つめ直すためのクリエイティブ発想本。そんな本が作れないかと考えたのが今年の春。あれから数ヶ月が経った結果、こうなりました。
おとなのための創造力開発ドリル
「まだないもの」を思いつく24のトレーニング
コミュニケーションを研究する立場から、イノベーションとは何かについて考察した本です。メディアと表現を一体で考えられるようになるための本です。メディアアートの発想法の練習を試みた本でもあります。……なんて言うと、なにやら小難しそうに聞こえますが、これ、ドリルですから。練習帳ですから。
文章は、なるべく軽やかに平易に書いたつもりなのですが、今読み返してみると、案の定、あまのじゃくなトーンがところどころに残っています。すみません。でも、共著の下浜臨太郎さんのイラストがとにかく可愛いのです。みなさんに、この本で楽しくラフに遊んでもらえたらと思っています。
たぶん12月18日発売です。