辻邦生さんの「美しい夏の行方」〜中部イタリア、旅の断章から〜を読んでいる。シエナの町の、カンポ広場の暮れゆく情景描写があまりにも美しくて、嗚呼、またシエナに行きたい。そしてあの、すり鉢の内側のような広場に時間を忘れてずっと寝転んでいたい。そう思ったら居ても立ってもいられない気分になってきた。どうしよう。。さすがに週末の二泊三日程度で行ける場所ではないしw
空から藍の色が次第に消えて、黒一色になった。だが、その黒は、ぼくが生涯初めて見たえも言えぬ黒であった。陳腐な言い方をすれば輝く黒、ビロードのような黒とでも言ったらいいのか、その黒は、純粋な黒であり、黒になったばかりの、汚れのない黒、処女の黒であった。黒がこれほど柔かく、高貴で、甘やかであるとは、ぼくは思ったこともなかった。
カンポ広場の暮れ方、より