naotoiwa's essays and photos

2017年08月



 八月も終わりである。今年は例年になく、なんとも切ない気分になるのはなぜだろう?蜩がカナカナカナと既に鳴き始めているような気分。…で、ハタと気が付いた。そう、大学のせいである。今年から大学の教員をやり始めたせいである。五十も半ばを過ぎているというのに、また若い学生並みにカラダとアタマが「夏休み」を意識するようになってしまっているのである、たぶん。

 そう言えば、昔々のあの頃は、8月の終わりといえば朝のラジオ体操もそろそろオシマイ、家族で出かけた旅行の際の日焼けもさめてきて、あとはひたすら夏休みの宿題の追い込みのみ。ああ、これでもう休みが終わっちゃうのか。9月からまた学校。せつないなあ。カナカナカナ、という気分だったのである。それがまたこの年になってリマインドしてきているのである。サラリーマンをやっていた30年間はすっかり忘れていた気分である。

 それにしても、夏休み。なんて蠱惑的な響きの言葉であろうか。

 中学一年生の頃の愛読書(というのも手元の旺文社文庫(!)の出版の日付を見てみたら昭和48年となっていた)、ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」に出てくる、試験に合格したハンス・ギーベンラートのこのセリフが好きだった。

 これでこそ夏休みだ!山脈の上にはリンドウの花のような青い空がひろがり、何週間も太陽が輝く暑い日が続き、ただ時折り激しく短い雷雨がやってくる。川への道は砂岩のかたまりがごろごろして、樅の木陰におおわれていたり、せまい谷間もあったが、それでも川の水はすっかりあったまって晩方まで泳ぐことができた。
ヘルマン・ヘッセ「車輪の下」岩淵達治訳


車輪の下


 かくのごとく、夏休みは始まり、そして8月の終わりにそれは幕を閉じる。かつてのあの気分を再びこの年になって味わえるとは、なんだかちょっぴり嬉しいような恥ずかしいような。



 最近、丸山珈琲の西麻布店で本を読んだり書き物をしていることが多い。広いし、家具のセンスがいいし、珈琲はいろんな種類を楽しめるし、そしてちょっぴり懐かしい。

 丸山珈琲。今でこそ東京にも鎌倉にも素敵な店舗がいっぱいあるが、昔は(といってもせいぜいが2000年初頭の頃のことである)丸山珈琲と言えば軽井沢の南ヶ丘の入口にある、ちょっと鄙びた、でもコーヒー通は誰もが知っている店だった。まだ、星野リゾートが本格的に中軽井沢をディベロップする前の時代の話である。

 軽井沢のゴールデンウィークや夏休みはとにかく車の渋滞がひどい。今のようにカーナビも進化していない時代は、自分で渋滞を避ける道をいくつも覚えるしかなかった。そんな道を経由しながら辿りつく丸山珈琲で、長閑な夏の終わりの時間を何度か過ごさせてもらった。まだ大震災が起こる前のことだ。

 雲場池、チェコスロバキア公使館跡、堀辰雄1412番別荘、愛宕山、オルガンロック。…毎年、「夏(の終わり)が来れば想い出す」情景は、私の場合、軽井沢のようである。

遊覧道

olympia hotel

Summicron 50mm f2 L + Ⅲg + Lomo B&W400


 olympia hotel.




 清瀬にある国立病院機構東京病院に行ってきた。現在の第一病棟の裏あたりにその建物は建っている。

外気舎

Summicron 50mm f2 L + Ⅲg + Lomo B&W400


 病院の構内を一周して散歩道がある。この季節には、生い茂っていた夏草も枯れ、散歩道を縁取った楢や櫟の木々も落葉する。そうすると散歩道からは病棟の部屋部屋が見え、病棟で寝たきりの患者の眼にも、枯れ落ちた雑木林の向うに、外気小舎のトントン葺きの屋根が幾つも点在するのが眺められた。

 高校生の頃の愛読本のひとつ、福永武彦の「草の花」の一節である。この外気小舎が今でもひとつだけ、第一病棟の裏にある桜の園近くに現存しているのだ。寿康館の跡地だったことを紹介している看板も近くにあった。

寿康館

 「草の花」の冒頭は以下の文章から始まる。

 私はその百日紅の木に憑かれていた。それは寿康館と呼ばれている広い講堂の背後にある庭の中に、ひとつだけ、ぽつんと立っていた。寿康館では、月に一回くらい、サナトリウムの患者達を慰問するための映画会が開かれた。 

 出発点と記された道標もある。その説明文を読んでいたら、なんとも切ない気分になってきて、、

出発点


 炎天下で、堀辰雄と福永武彦の文章に憧れ続けた頃のことを想い出す、今日は今年最後の猛暑日。


 久しぶりにカメラ&レンズの話。



 ここ数年はよほどの事がない限りカメラやレンズを買い足すことはなくなった。ほとんどのオールドレンズが以前に比べるとおよそ倍近く高騰してしまったこともあるし、新規購入に値するほど写りの違うレンズというのもなかなか見当たらない。

 例えば、このトプコンの58ミリ。昔から安価な割に写りが個性的なレンズとして知られていたが、最近では4万以上する場合もあるし、そのくせ、光学系の程度のいいものがなかなか見つからない。

topcor

 がっ、ついに見つけたのである。格安。光学系メチャメチャきれい。新品同様のフードまで付いている。どころか、ほとんど使用形跡のないトプコンのカメラ自体も付いている。(レンズの値段の相場からするとカメラはオマケの扱いだろう)

topcon

 このRE200というのは70年代後半に出た廉価版で、60年代のREスーパーに比べれば質感がかなり落ちると言われているが、いえいえ、まったく問題なし。シャッターも高速までキチンと動いているし、露出計もオーケー。フィルムカウンター表示がちょいと怪しかったけれど、送り自体はしっかりしている。

 ということで、このカメラとレンズでフィルムで撮ってみたのである。あ、いいですね。この背景のとろけるような柔らかなボケ。久々にいい買い物をした。トプコンマウントは実質エクザクタマウントでもあるので、これで、エクザクタマウントのアンジェニューもフィルムでバシバシ撮れるのである。

lion

RE Topcor 58mm f1.4 + RE200 + Fuji400


 まだまだいいカメラとレンズをリーゾナブルに探し出すチャンスは、残っている。

line

RE Topcor 58mm f1.4 + α7s


 line.


graffiti

Triotar 40mm f3.5 of Rollei B35 + Lomo B&W 400


 忠孝?


grey sky

P.Angenieux 12.5mm f1.8 + Q-S1


 foretaste of thunder.



商店街

GR 18.3mm f2.8 of GRⅡ


 聖人たちの商店街。




 うちの学生さんが、今日から一年弱ひとり暮らしをすることになりました。下宿先はパリの15区の屋根裏部屋です。狭いかもしれないけれど(狭いでしょう、きっとw)エッフェル塔まで徒歩10分。羨ましい限りです。できることなら、自分が30数年分若返って代わりに住んでみたいものだと思います。

 今回の留学は、本当にいろんな人のご好意に支えられてのこと。みなさんへの感謝の念を忘れないでください。フランス語と英語だけの授業は大変でしょうが、なんとか乗り切ってください。その上で一年弱の旅を満喫してきてください。

 昔は、留学のことを遊学と言ったようですね。今では、遊学なんて言うと勉強もせず遊んでばかりいるみたいに聞こえますが、そうではないと思います。ずっと定住するわけではないのですから。日常と非日常の間を行き交う一年なんですから。ちょっと長めの旅であることにかわりはないのですから。だから、遊学でいいと思います。

 いつも柔らかい感性で、新しい街、新しい友人、新しい学問、新しい本に向かい合ってきてください。そうすれば、たくさんの未来の可能性が自然とあなたのところに引き寄せられてくることでしょう。

 そのためにも、いつも心を自由にしていてください。(自由になるお金はあまりないと思いますが。父に甲斐性がなくてごめんなさい)自由と、生涯かけて没頭できる何かと、自分の能力だけを信じるタフさを持ち続けてください。それがあれば、遊べます。お金がなくとも、どのようなしがらみがあろうとも、心の中で遊べるはずです。

 今日は、そんなこれからのあなたの移動祝祭日ということですね。

 Bon Voyage.

luggage

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