naotoiwa's essays and photos

2017年07月



 さて、7月も半ばに近づくと、例によって、サーファーの女ともだちから電話がかかってくるのである。なぜか、いつも電話である。いつになっても電話なのである。ラインでもメッセンジャーでもメールでもなく、携帯電話ですらなく。家の固定電話にかかってくるのである。電話は金曜日の夜の11時と決まっている。開口一番、「元気ですかぁ。今年もそろそろ海開きですねー」…「うーん、でもまだ梅雨空けてないでしょ?」「気温30度超えてるんだから、これはもう真夏も同然」…そりゃそうだ。ということで、土曜日の午後、今年もここにやって来たのである。由比ヶ浜駅から歩いて5分。海開きと言えばここなのである。

 ここで、コロナビールを飲みながらラーメンを食べるのである。ラーメン?…そう、ラーメンを食べるのである。午後2時。気温は摂氏34度。足元から焼けた砂の匂いがぬうっと立ち上がってくるが、大きなパラソルの下にいれば問題はない。けっこう涼しいのである。海からの風で汗がすうっと引いていくのである。だから熱々のラーメンだって食べられるのである。

コロナ

 「おまちどぉ」…醤油味のスープは澄んでいる。眼の前の海は赤潮で濁っている。茹で上がった乾麺の色が妙に黄色いのはなぜだ。「光線の加減かな?」「ここの中華麺にはね、マンゴーとかパパイヤとか、トロピカルフルーツの果汁がいろいろ練り込まれているからよー」「え、そうなの?」「ウソよ、ウソに決まっているじゃない、アッハッハ」…と、今年も相変わらずの彼女である。ホットパンツからすらりと伸びた両脚からは、ココナッツオイルのいい匂いがする。

ビーチ

 麺の鮮やかな黄色を夏の光に翳してみてからズルズル啜る。で、ライム風味のビールで流し込む。…夏である。すぐ近くの砂浜でスイカ割りに昂じているひとたちがいる。…夏である。ビニールシートの上でiPhoneにイヤフォン繋いだおっさんがいる。接触が悪いのか、聞いている曲がダダ漏れだ。クリス・レアの「オン・ザ・ビーチ」。これはさすがにベタすぎるんじゃないか?

ラーメン




 さあて。ラーメンも食べ終えたし。半年ぶりにここで、彼女とゆっくり話をすることにしようか。

all photos taken by GRⅡ

imagine red

Lumix G Macro 30mm f2.8 ASPH. + GM1


 Imagine the color of watermelon.




 アパアトの一階のその部屋の前を通りかかる時、いつも、ふわりとその匂いがする。甘くフローラルな匂いだ。ちょっと古風な匂い。でもどことなく安っぽい香料みたいな。その部屋の南西に面した窓の奥には、夜、オレンジ色の明かりが付いている時もあれば、夏の強い日射しでギラギラしている真昼間、ひっそりと真っ暗なままの時もある。けれども、いつだってその部屋の前を通りかかる時、ふわりとその匂いは漂ってくる。それは、ここに住んでいるひとが浴室で使っているシャンプーやボディソープの匂いかもしれない。洗濯機に入れている柔軟剤の匂いかもしれない。あるいはそのひとが付けている香水の匂いかもしれない。あるいは、…

 甘くてどこか饐えたようなその匂いは、ずっと昔の古い記憶に私を誘う。あるいは、未来の何処かに潜んでいるもうひとつの日常生活に私を誘う。空は青くて雲はピンク色だ。公園の緑は謎めいて、人間たちは小さな森の中でひっそりと静かに暮らしている。その何処かに私のラシーヌが、今も息を潜めて待っている。

森

Zunow 13mm f1.1 + Q-S1

comme Magritte

Zunow 13mm f1.1 + Q-S1


 comme Magritte.


graffiti

Zunow 13mm f1.1 + Q-S1


 graffiti.




 たまには広告の話でも。(ちなみに私は広告論が専門ですw)カンヌ広告祭(って言わないんだよね、今は。Cannes Lions International Festival of Creativity。カンヌライオンズです)も終わり、今年、世界を席巻した広告を振り返ると、やはりこの2作品に集約される感じだけれど。





 個人的には、Samsungのこの作品が大好き。テクノロジー×コミュニケーションをテーマにしている仕事柄、ARやVRについてはその手法論、あるいは概念論として様々な考察をしてきているつもりであるが、そういう研究疲れのアタマをやさしく癒やしてくれるアイデアである。VR体験を表現する際によく使う immersive(没入感)な感覚を伝えるのにこれほど分かり易くチャーミングな表現はないのではないだろうか。

 Yes, I can.もいいけれど、So you can do what can't be done.と言われる方がもっといい、と例によって、あまのじゃくな私は思うのです。



 原宿で、ハービー山口さんの写真展を見てきた。タイトルは「That’s Punk」(それがパンクだろ!)。デビュー前のボーイ・ジョージを撮ったコンタクトシートに魅せられた。

punk

Zunow Cine 13mm f1,1 + Q-S1



 先日、「言語隠蔽」について書いたばかりなのであるが、私は、よくよく言葉で騙されやすいタイプである。あるいは、言葉だけでどんどんイメージを広げていけるタイプである。例えば、大学の近くに「恋ヶ窪」なんてところがあるが、そんな地名を聞いたりすればずぐに魅了される。そして、名前の由来とされている「姿見の池」見たさに駅から線路伝いをトコトコひとりで歩いて行ってしまう。

 ここはかつて鎌倉街道の宿場町があったところだ。遊女たちが池の水面に自らの姿を写した。だから姿見の池。そして、とある鎌倉武士と遊女がここで恋に落ちた。鎌倉武士が平家との戦いで死んだと聞かされた遊女は絶望の余り池に身を投げる。それが「恋ヶ窪」の名前の由来とされている。

姿見の池

 いずれにしても、周辺は国分寺崖線のハケの湧水が育んだ野川の水源とされているエリアである。この姿見の池がそうだと言う人もいるし、現在は日立製作所の中央研究所内にある大池がそうだと言う人もいる。(日立製作所の敷地内は年に二回、一般公開されている)

 ハケの道。野川。川沿いには旧石器時代の遺跡跡もある。そして、その水源地の地名が「恋ヶ窪」。イメージはどんどん膨らんでいくのである。


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