さて、7月も半ばに近づくと、例によって、サーファーの女ともだちから電話がかかってくるのである。なぜか、いつも電話である。いつになっても電話なのである。ラインでもメッセンジャーでもメールでもなく、携帯電話ですらなく。家の固定電話にかかってくるのである。電話は金曜日の夜の11時と決まっている。開口一番、「元気ですかぁ。今年もそろそろ海開きですねー」…「うーん、でもまだ梅雨空けてないでしょ?」「気温30度超えてるんだから、これはもう真夏も同然」…そりゃそうだ。ということで、土曜日の午後、今年もここにやって来たのである。由比ヶ浜駅から歩いて5分。海開きと言えばここなのである。
ここで、コロナビールを飲みながらラーメンを食べるのである。ラーメン?…そう、ラーメンを食べるのである。午後2時。気温は摂氏34度。足元から焼けた砂の匂いがぬうっと立ち上がってくるが、大きなパラソルの下にいれば問題はない。けっこう涼しいのである。海からの風で汗がすうっと引いていくのである。だから熱々のラーメンだって食べられるのである。
「おまちどぉ」…醤油味のスープは澄んでいる。眼の前の海は赤潮で濁っている。茹で上がった乾麺の色が妙に黄色いのはなぜだ。「光線の加減かな?」「ここの中華麺にはね、マンゴーとかパパイヤとか、トロピカルフルーツの果汁がいろいろ練り込まれているからよー」「え、そうなの?」「ウソよ、ウソに決まっているじゃない、アッハッハ」…と、今年も相変わらずの彼女である。ホットパンツからすらりと伸びた両脚からは、ココナッツオイルのいい匂いがする。
麺の鮮やかな黄色を夏の光に翳してみてからズルズル啜る。で、ライム風味のビールで流し込む。…夏である。すぐ近くの砂浜でスイカ割りに昂じているひとたちがいる。…夏である。ビニールシートの上でiPhoneにイヤフォン繋いだおっさんがいる。接触が悪いのか、聞いている曲がダダ漏れだ。クリス・レアの「オン・ザ・ビーチ」。これはさすがにベタすぎるんじゃないか?
さあて。ラーメンも食べ終えたし。半年ぶりにここで、彼女とゆっくり話をすることにしようか。
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