naotoiwa's essays and photos

2016年03月

花曇り

P.Angenieux 25mm f 0.95 + E-P5



 門の花静かに白し花曇り  (原石鼎)

 花曇り捨てて悔なき古恋や (芥川龍之介)



桜

GR 18.3mm f2.8 of GRⅡ


 sakura brings me back memories.


blue devil

CZ Jena Sonnar 5cm f1.5 T (during wartime) + M9-P


 blue devil.




 東京の桜は現在五分咲きくらい。今年の東京の開花宣言は3月21日だった。例年より5日早く、去年より2日早かった。それを決めるのが標本木。各県ごとに桜の標本木を定め、その開花状況を係員が「目視」して行う。実は極めてアナログな手法である。デジタルテクノロジーの進化した現代ならばもっと他の方法もあっていいのではないかと思うのだけれど。

標本木

 で、東京の標本木はなぜか靖国神社内にある。気象庁が近くにあるからということらしいが、この標本木のすぐ近くには第二次世界大戦で使われた多数の兵器を展示している例の「遊就館」があるし、特攻兵士の像も建っている。正直言ってちょっと複雑な気持ちになる。…桜。ニッポン。

特攻兵士

 ソメイヨシノは種子を作らない。ほとんどが接ぎ木によるクローン増殖。遺伝子情報が一定しているからこそ、いっせいに咲き始め、そしていっせいに散る。そのことが全体主義的な象徴とされた原因になっているような気もする。でも、その人工性ゆえか、我々はソメイヨシノに脆弱でデカダンな美学を感じてしまう。やはり、あの薄墨色の危うさ、妖艶さ、華やかさ、そして冷たさはただものではない。。

all photos taken by Summilux 50mm f1.4 ASPH. + M9-P

pink cloak

Summilux 35mm f1.4 2nd + M9-P


 pink cloak.


3prayers

CZ Jena Sonnar 5cm f1.5 T (during wartime) + M9-P


 3 prayers.


moon

Summilux 35mm f1.4 2nd + M9-P


 叢雲に月。


桜みくじ

Summilux 50mm f1.4 ASPH. + M9-P


 sakura mikuji.




 また誕生日を迎えてしまった。20代の頃、自分が40歳になって21世紀を迎えるなんて到底信じられないことだった。それがいつの間にか、そこからまた十余年も経過してしまったのである。
 退社して一年、さすがにサラリーマン時代とは異なる苦労もあったのだろうか、ほうれい線の刻みが少し深くなった気がする。目の下のたるみもなんだか増えたような気がする。

 これからの人生、まだまだいろんなことがありそうな気がする。ゴールデンパラシュートが3回ぐらい開くかもしれないし、目も当てられぬ下流老人になっている可能性もある。5年後、10年後、やりたいこととやらねばならないことのバランスがうまく取れているのかは今ひとつ自信がないけれど。
 でも、ひとつだけ確かなこと。それは、この先、どんなことがあっても、何事からも自由である自分でいたいということ。敬愛する永井荷風さんのように。

 時雨ふる夕、古下駄のゆるみし鼻緒切れはせぬかと気遣ひながら崖道づたひ谷町の横町に行き葱醤油など買うて帰る折など、何とも言へぬ思のすることあり。哀愁の美感に酔ふことあり。かくのごとき心の自由空想の自由のみはいかに暴悪なる政府の権力とてもこれを束縛すること能はず。人の命のあるかぎり自由は滅びざるなり。

 こういう老人になるのが理想。で、荷風さん、最後はどうなるんだっけ?79歳で孤独死?…ウウム、これはさすがにカンベン願うとして。。

 そうならぬよう、明日からまた精進して参ります。みなさま、引き続きお引き立ての程を。今週、満開を迎える桜も多いことでしょう。大切なひとと大切な自分と、素敵な春の一日をお楽しみください。そうしてココロの中でこっそりと大声で叫びましょう。「人の命のあるかぎり自由は滅びざるなり!」と。ついでに小声でつぶやきましょう。「ほうれい線は豊齢線なり!」と。(?)

cherry

Summilux 50mm f1.4 ASPH. + M9-P





 東京でも桜の開花が宣言された朝である。近所のベーカリーに朝食を食べに行った。朝の8時からロードサイドに車がいっぱい停まっている。我々は犬同伴なので店内には入れないが、これだけ暖かければ屋外のベンチでなんら問題はない。膝掛けもいらぬ。

 こ、これは!ウワサ通りバツグンにおいしい朝食だった。フレンチトースト絶品。甘過ぎず、卵はふわふわとろとろ。ベネディクトも。そして珈琲はビター。洒落た装いの男女が次々と車で乗り付けてくる。気分はニューヨーク。

NY

Lumix 25mm f1.7 ASPH. + GX7

 でも、なんだか複雑な気分にもなってくる。数年前まではニューヨークのソーホーにでも行かないことには決してありつけなかったこんな味が、いとも簡単に東京の自宅近くで気軽に味わえるとは。「憧れ」がどんどんコモディティ化していく。

 犬は、そんな私の感傷にはお構いなく、先程からダイレクトにおいしさに反応している。「こ、この卵は絶品ですねえ、ダンナ!」ってなものである。「ついでにそのベーコンも一切れくださいな…」

french toast

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