久々に川上弘美さんの短編集を読む。タイトルは「天頂より少し下って」。

川上

 この本の中に、十年ぐらい前「群像」に掲載された「ユモレスク」という短編が入っていた。舞台は吉祥寺。

 マスターは留守にしている。代わりにイイダアユムがカウンターの中にいた。客は他にはいない。人通りが多いのに、みんな「やまもと」を素通りして、公園のほうへと歩いてゆく。

 ハナもイイダアユムも「やまもと」のマスターも吉祥寺に住んでいる。マスターはいつも三浦屋で買い物をしている。そして、井の頭公園に時々現れる猫当番の老女の話。

 このあたりの一節を読んでいると、あの店のことを思い出す。南口から下っていき、「いせや」を過ぎ、まさに井の頭公園の敷地内に踏み入ろうとする境界線にその喫茶店は建っていた。名前はたしか「くれーぷりー」。元祖猫カフェ。猫たちは公園とカフェの間をいつも自由に行き来していた。冬の寒い日、暖を取りにカフェのストーブの近くに何匹もの猫たちが蹲っていたものだ。現在はドナテロウズというアイスクリームカフェになっている。

吉祥寺の猫

 かつての吉祥寺には雰囲気のある喫茶店がたくさんあった。この「くれーぷりー」しかり。「ペンギンカフェ」しかり。南口の地下の「ストーン」は今も健在なり。パルコの脇の「ファンキー」は喫茶店をやめてしまった。プチロードの「モア」と「ジョン・ヘンリーの書斎」は健在だが、「西洋乞食」は場所を変えてしまった。They bring me back memories.

 さてさて、「天頂より少し下って」。読み進めていくうちに、やっぱり川上さんは天才的な小説家であると同時に、天才的なコピーライターでもあるなあとつくづく思った。

 人生って、油断していいんだか、ぜんぜん油断できないんだか、よくわからないね。

 なんて、なかなか書けるセリフ、では、ない。